第12話 ホストが泊まりにくるらしい。
Xデー当日、俺は不本意にもそわそわとしていた。長時間一緒にいることは別に初めてじゃなし、いつも通りに振る舞えばいいだろう、と頭では思っているのにどうにも落ち着かず、部屋の片付けなどを行っている。
なんかこれってすげー好きみたいじゃん。嫌だ……。
突然そう思い、絶望し、無言でベッドの上に倒れ込んだ。
◆
運が良いのか悪いのか、俺にとっては確実に悪いのだが、電話で泊まる話が出た二週間後は土日月という三連休だった。
スバルの店の休みはカレンダーに関係ないものの、日月の休みを勝ち取ったらしい。日曜、起きたら夕方くらいにそっちに向かうね!と、嬉々として言っていた。
そして宣言通り、17時過ぎにやってきた。
薄手の白いニットにスキニーという出立ちで、一泊にしては大きめのボストンバッグを肩にかけている。最近暗めに入れたアッシュの髪色のせいか、以前よりはいくらか落ち着いた外見になった。
「ほんとはもうちょっと早く来たかったんだけどさ、寝過ぎちゃったよ~」
にこやかにそう言いながら靴を脱いで家に上がると、ローテーブルの脇に座り込み、持ってきた荷物の整理を始めている。スバルには緊張のかけらもなく、あまりにいつも通りなので、なんだかこっちが拍子抜けしてしまった。
「なあ、荷物多すぎないか?」
「言うほどでもないよ?部屋着は借りようと思ってたし。明日着る服と、夜食べようと思って買ってきたお菓子と、それから……」
「待てって。絶対それだろ原因!」
俺はスバル持参の黒いボストンバッグからはみ出している触手を指差して非難した。名前を呼んでやるつもりは毛頭ない。
「あ、ポチね。やっぱりこれ、優也の家に置こうかなって思って持ってきたんだよ」
「は?!ふざけんな。勘弁してくれ」
「可愛いしいいじゃん。なかなか会えないときもあるしさ、優也がひとりのとき、寂しくないようにって思って」
スバルはそう言い、くらげのへんなぬいぐるみを抱きしめて愛らしい表情を浮かべている。
……こいつの中で俺のイメージはどうなってるんだ?
怒りのあまり、その鼻をつまんでやりたい衝動にかられたがぐっとこらえた。なんとしても明日、持って帰らせると心に誓う。
「あとね、これは置いておく用の歯ブラシと洗顔料でしょ、夜寒かったら履くモコモコのくつしたも。あとワックスと」
「置いておく私物もやたらと多い気がするんだが」
「当たり前だろ!部屋に僕の痕跡を残しておかないと。恋人いる雰囲気を醸し出すんだよ。いざというときのために」
いもしない見えない敵と戦うために、スバルはファイティングポーズをとる。あー馬鹿馬鹿しい。
「別にお前しか家入らないしさ」
「そうなの?」
「俺、昔から部屋とかに他人が入るのあんまり得意じゃないから」
「へえ。元カノも入ったことないの?」
痛いところを突かれた。
いや、過去の話だし、痛くもなんともないのだが。
「……付き合ってた時は家に来たこともあるけど、まあ。しょっちゅうではなかったな」
「ふうーーーんそっか」
子供じみた発音であからさまに不機嫌をアピールしたあと、荷解きを終えたスバルは体育座りをし、そっぽを向いてしまった。自分で聞いておいて、なんだその態度は。
理不尽なふるまいに俺は憤然とし、背中を向けたスバルの正面に回り込み、真顔で鼻をつまんでやった。するとどちらともなく笑い出して、まんまと不機嫌を解除することに成功した。こうしてみるとくだらないが、恋人の扱いも慣れたものだ。
数ヶ月とはいえ、スバルと過ごしてきた時間の重みを、こんなときに実感したりする。
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