第46話:村娘、星を見る

 暗殺未遂事件から数日が経った日の夜。


 わたしはドキドキしながら、王城の階段を上へ上へと歩いていた。


 向かう先にあるのは、お城の最上階にある王様の私室。


 ついに今日、わたしは王様の部屋にお呼ばれしてしまったのだ!


 これはもう……アレだよね。玉の輿チャンスだよね!?


 この千載一遇のチャンスは逃せない。


 既成事実を作っちゃえばこっちのものだ。


「くけけっ……くけけけけっ!」


「また何か企んでるのか、ミナリー?」


「ぅひゃぁっ!? お、王様っ!?」


 いつの間にか王様が目の前に立っていた。


 か、影が薄いから気づかなかったよ……。


「悪いな、急に呼び出して。ミナリーにどうしても見せたいものがあったんだ」


「見せたいもの……?」


 何だろうと首を傾げていると、王様に部屋の中へ案内される。


 広々とした室内は、アリスの部屋ほどじゃないけど、家具もあまり多くなかった。


 しかも部屋全体でゴージャスな感じがぜんぜんしない。


 壁は普通の白い壁紙だし、ベッドは木製だし、天蓋もないし。


 何だかとても質素だった。王様らしいと言えばらしいのだけど。


「こっちだ、ミナリー」


 部屋の中をきょろきょろと見ていたわたしに、王様が呼びかける。


 見ると、王様はバルコニーの方に出ていた。


 冬の到来を感じさせる冷たい夜風が、部屋の中に吹き込んでいる。


「うぅっ、寒いぃ……」


「少しだけ我慢してくれ」


 そう言って、王様はわたしの手を引いてバルコニーへと連れ出す。


 バルコニーからは、夜空と城下の街並みが一望できた。


「うわぁ……!」


 思わず感嘆の声を漏らしてしまう。


 ――夜空にも、地上にも、幾億の星々が瞬いていた。


「ここからの景色を見せたかったんだ」


「凄いよ、王様! 入場料を取れるくらい綺麗だよっ!」


「こんな時にも金かよ……ったく。本当にブレないな、お前は」


「ふふんっ、それほどでもあるよ」


「褒めてないからな?」


 ふざけて胸を張るわたしに、王様は溜息交じりに苦笑を零した。


 王様はバルコニーの手すりに体を預けるようにしてもたれかかる。


「……この景色は、俺たちが頑張って来た証なんだ。少し前までは魔導技術を王族が独占していたから、夜の街に灯りがある光景なんて考えられなかった」


「へぇー」


「俺にはこれからも、この景色を見続けて行く義務がある。……だからまあ、この前は助かった。ミナリーが居なかったら、俺は殺されていたかもしれない。アリスやアリシアだって……本当にありがとう、ミナリー」


「え、あ、その……」


 王様から面と向かって感謝され、顔が赤くなっていくのを感じる。


 アリスに感謝された時もそうだったけど、もしかしてわたし、褒められることに慣れてないのかもしれない。


 と、とりあえず、何か言わないと。


「い、いえいえ! お礼なら、特別ボーナスさえ頂ければ何もいりませんよ?」


「最後まで俺を殺そうとしてたくせによく言うよ」


 …………どうしてばれてるし。


 王様が相手だと調子が狂うと言うか、なかなか思惑通りにことが進まないんだよねー。


 結局、玉の輿チャンスも来なさそう……。


「……そういえば、少しくらいなら給料に色を付けても構わないとアリスが言ってたぞ」


「え、ホントっ!?」


「ミナリーにただ働きをさせていたこと、少し気にしていたみたいだ。俺からも、給料日に追加でボーナスを出すようアリスに言っておく」


「わぁい! ありがとうございます、王様! 一生お仕えいたしますっ! きゃぴっ♪」


「お、おぅ……。まあ、金に釣られて頻繁に裏切られても困るからな」


「え、王様何か言った?」


「いや、何でもない」


 夜風の音でよく聞き取れなかったけど、ボーナスが出るみたいだし小さいことは気にしないようにしようっと。


 うぇへへっ、幾らくらい給料に上乗せされるんだろう?


「…………なあ、ミナリー。これからも、俺に仕えてくれるか?」


「え? あ、うん。お給料くれるなら良いよー」


 王様の言葉をあんまりちゃんと聞いてなかったから、とりあえずテキトーに答えた。王様はわたしの顔を見て、穏やかな笑みを浮かべる。


「そっか。……お前らしいな、ミナリー」


 その言葉の真意はよくわからなかったけど、わたしたちはもうしばらく、冷たい夜風に吹かれながら、夜空と地上の星々を眺め続けていた。

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