第42話:村娘、忍ぶ
王様の誕生祭が始まってしばらく経った頃。
大盛況のお菓子の出店を、手伝ってくれている近衛兵の女の子たちに丸投げ……もとい、お任せして!
わたしは一人、城の中を歩いていた。
目的地はアリスの私室。そして、アリスの持っている下着たちッ!!
お菓子を売ったって材料費やその他諸々を考えると、大きな利益にはなりようがない。
その点、アリスの下着は多少の危険が伴うけど材料費はかからない。
そしてアリスの下着を欲しがる人たちに高値で売れる!
既に何人かの商人から協力を得ているから、売り払う際に足がつく心配もないし、祭りの最中に城へ侵入した下着ドロボーが居たということにすれば、わたしが疑われることもないっ!!
我ながらなんて完璧な作戦なんだろうっ♪
「と、言うわけで。お邪魔しまぁーすっ」
あらかじめ、アリスを看病した時に部屋の合鍵を拝借しておいて正解だった。
さぁーて、と。
下着がある場所はわかっているけど、下着だけ綺麗に盗んだらこの前看病していたわたしが疑われてしまう。
下着ドロボーの仕業に見せかけるために、色々なところを探した痕跡を作らないと。
ついでに、何かアリスの弱みが見つけたら一石二鳥だ。
まずはクローゼットから。
看病をしていた時はあんまり詳しく調べられなかったから、奥の方まで入念に入って居る物を確認する。
手についた物をテキトーに引っ張り出していると、前にアリシアと城下へ買い物に行った時に着た服を見つけた。
これ、アリスの私服だったんだ……。
色合いはシンプルながら、フリルやリボンをふんだんに使った青のワンピース。
これを着てアリスが鏡の前に立つ姿を想像すると、何だか普段の雰囲気とのギャップに笑ってしまいそうになる。
さらにクローゼットを漁っていると、奥の方からヌイグルミを見つけてしまった。
ちょっと古い物なのか全体的に汚れている印象を受けるけど、ふわふわで可愛らしいクマのヌイグルミだ。
アリスが小さい頃に大事にしていたのだろうか。
小さい頃のアリスなんて想像できないけど、アリスにも可愛らしい時代があったんだなぁー。
……と、そんなことをしみじみ考えている場合じゃなかった。
アリスは王様と一緒に出店を回っているからすぐに戻って来ないと思うけど、さっさと終わらせるに越したことはない。
そろそろ下着を拝借させてもらおう。
クローゼットの一番下の引き出し。
そこを開けると、中には綺麗に畳んで並べられた色とりどりのパンツとブラが並んでいる。
看病していた時は気づかなかったけど、意外と淡い明るい色の下着が多かった。
イメージ的に黒とか多めな印象があったけど。
うぅーん。
これは少々、予想外の事態だ。
何と言うか、アリスっぽくない。
アリスの下着として売り出すのだから、当然アリスっぽさが必要になってくるわけで。
それなのに、アリスの下着は明るい感じの色ばかりだ。
それに加えてレースがついていたりフリルがついていたり、クマさんがついていたりと、子供っぽい下着しかない。
「とは言え、これが本物だしなぁ……。アリス、クマさんパンツはいてるんだぁ……」
「私のパンツを陽にかざして何を悩んでいるのですか、ミナリー?」
「いやぁ、このクマさんパンツをどう売り払ったものかなと思って」
このままじゃアリスの下着だと信じてもらえないだろう。
何か、信憑性を持たせないと、仲介する商人の人たちでさえ受け取ってくれなさそうだ。
「うぅ~ん…………って、あれ?」
ところで、わたし、今、誰と会話していたんだっけ?
小鳥さんかな? 鏡さんかな? 幽霊さんかな?
なんて現実と思考を放棄しながら振り返ると、そこに居たのはニコニコと冷酷な笑みを浮かべる下着の持ち主さんだった。
やヴぁい。
逃げないと殺られる――ッッッ!?
「どこへ行くつもりですか、ミナリー?」
「いやぁああああああああああああああアリスぅううううううううううううううううっ!?」
脱兎の如く逃げ出し扉まであと少しのところ、一瞬でアリスが目の前に現れた。
しまった、いつの間に!? いくらなんでも速過ぎるっ!! 退路が完全に断たれたっ!!
「ミナリーが何やら悪巧みをしているようだと我が王が仰っていましたが、まさかこのようなアホなことをしでかすとは、さすがの私でも予想できませんでした」
「え、えへへ。それほどでもぉ~」
「褒めていません」
「ですよねっ!?」
顔は笑ってるけど、目がぜんぜん笑っていなかった。
「こんなことをしでかして、ただで済むとは思っていませんね、ミナリー?」
「あ、あはははは…………。え、えーっと…………給料五割アップ♪ ……とか?」
「全額カットです」
「いぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいやぁああああああああああああああああああっっっ!? 後生ですからそれだけはぁっ!! それだけはどうかご慈悲をぉおおおおおおおおおおおっ!!」
靴を舐める勢いで足元に縋るわたしを、アリスは死刑宣告と共に満面の笑みで見下ろす。
「だぁーめ♪ ゼッタイニユルシマセンヨ?」
わたしは血涙を流しながら、その場に崩れ落ちたのだった。
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