第38話:村娘、冒険する
ノートから発見した宝の地図を頼りに、わたしとアリシアはぐんぐんと城の地下へ足を進めていた。
それにしても、わたしが捕まっていた地下牢の奥に、更に地下へ進む通路があっただなんて。
これはお宝の匂いがビンビンと漂ってきますなぁ。
「……ねえ、ミナリー。そろそろ戻った方が良いんじゃ……?」
「なに言ってるの、アリシアっ! この先にお宝があるんだよ!?」
「お宝って、まだそうと決まったわけじゃないじゃない。……それに」
アリシアはわたしの左腕をギュッと抱きしめ、体を密着させる。
彼女の吐息が耳元に感じられ、腕には柔らかい塊が押し付けられ……ない。
肋骨が当たって痛いだけだった。
「もしかして、アリシア、怖いの?」
「は、はぁっ!? そ、そんなわけ、ないじゃない? こ、怖くなんかないわよ!?」
「へぇー、怖いんだぁー」
「怖くないって言ってるでしょーが!?」
と言いつつも、アリシアはいっこうにわたしの腕を放そうとしない。
手元の魔導式ランプの灯りが揺れて、通路の壁に映し出された影が動くたびに、ビクビクと怯えている。
「さ、さすがのあんたもさすがに怖くなってきたんじゃない……!?」
「え、ぜんぜん大丈夫だよ?」
「どんだけ強心臓なのよ!? 怖いもの知らずかっ!」
「さすがに怖いものがないわけじゃないよ。ただ働きとか、借金とか、骨折り損のくたびれ儲けとか、安物買いの銭失いとか」
「あんたのブレなさ具合に今だけは感動を覚えるわよ……」
アリシアは呆れたふうに溜息を吐きながら、けれどよりいっそう強くわたしの左腕を抱きしめた。
とても歩きづらい。
そして肋骨が当たって痛い。
どうにかしてアリシアを振り払って先に行ってやろうかとも思ったけど、実行はやめておく。
今でこそ平然と通路を進めているわたしだけど、さすがに一人きりで通路を進もうという気は起きなかった。
しばらく進むと螺旋状の階段は終わり、その先に木製の扉が待っていた。
施錠はされていないらしく、ちょっと押しただけでギギギィと音をさせながら扉は簡単に開く。
わたしとアリシアは互いに頷き合ってから、部屋の中に足を踏み入れた。
「なによ、ここ……?」
「何かの研究室かなぁ?」
そこは、十メートル四方ほどの正方形の地下室だった。
壁際にはよくわからない薬品や薬草が入った棚と木製の作業机があり、その上には分厚い書物が山積みされている。
作業机に近づいてよく見ると、机の上に液体が入った幾つもの試験官が並んでいた。
その内の一つにはどこかで見たことのあるような気がする、ピンク色のものも含まれている。
これって確か――
「こんなところで何をしているのですか、二人とも?」
「「ひゃうっ!?」」
部屋の出入り口から聞こえた声に、わたしとアリシアは間抜けな声を上げながら振り向く。
そこに居たのはメイド服を着た黒髪の美女。
言わずもがな、アリスだった。
「地下の方が騒がしいので何かと思って来てみれば。アリシア、ここには危険な薬品が多くあるので立ち入り禁止だと言っておいたはずですよ」
「へっ? あ、あー……そ、そう言えばそうだった気もしなくもないようなぁー?」
アリシアはアリスから視線を逸らして、下手くそな口笛を吹き始める。
そんな彼女にアリスは額を押さえて溜息を吐き、視線をわたしの方へと移した。
「ここはわたしが個人的にポーションの研究をしている部屋です。この部屋の物を盗んで売り払うことは許されませんよ」
「ちぃっ…………って、そうじゃなくて! お宝は!? お宝はどこっ!?」
「お宝、ですか……?」
首を傾げるアリスに、わたしたちは宝の地図に従ってここまできた経緯を説明した。
「なるほど、そのようなものが……」
「お宝はっ!? アリス、お宝をどこに隠したの!?」
「落ち着きなさい、ミナリー。お宝かどうかわかりませんが、この部屋は元々ワインルームでした。地図の×印はお宝ではなく、ワインを指していたのではありませんか?」
「わいんるーむ? じゃ、じゃあ、そのワインはどこに!?」
「財政が今よりも苦しかった頃、一部を除いてコレクターに売り払ってしまいました。だいたい、金貨四千枚くらいになったでしょうか」
「金貨、四千枚……!?」
ガクッと、わたしはその場に膝をついてしまった。
金貨四千枚……四十万ウェン……パン八万個。
あ、あはは……あはははは………………うぅっ。
「そんなに落ち込むことないでしょ。元々、あんたの物だったわけじゃないんだから」
「そうですよ、ミナリー。――ところで二人とも、仕事はもう終わったのですか?」
「「…………………………あっ」」
このあとメチャクチャ怒られた。
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