第37話:村娘、見つける
昼食の後、午後からの仕事がひと段落した頃、わたしは厨房で古臭いノートのページをペラペラと捲っていた。
そこへ、厨房にアリシアが駆け込んでくる。
「やっぱりここに居た! あんたねぇ、いつもいつもこの時間になったらサボって厨房でお菓子を作ってるんだから! 仕事はまだ残ってるのよ!?」
「うん、知ってる」
「知ってたらサボるなぁっ!!」
むきーッと怒るアリシア。普段はサボっても怒らないのに、今日はどうしたんだろう?
そう疑問に思った直後。きゅるるるるぅ~……と、アリシアのお腹から変な音がした。
「ああ、なるほどぉ。へぇ~?」
「な、なによっ!? べ、別にお腹が減ってるわけじゃないんだからねっ!?」
ふんっ! と、アリシアは顔を真っ赤にしてソッポを向く。
意地っ張りだなぁ。
お腹が減ってるのなら、初めからそう言えば良いのに。
「アリシアも食べたいなら、少し多めに作るけど、どうする?」
「い、要らないわよっ、お菓子なんて!」
「そっかぁー。じゃあ何作ろうかなぁー」
「うっ……うぅっ…………うぅぅぅぅっ!」
「アリシア、素直になるなら今だよ。『お願いします、ミナリー様。食いしん坊なわたくしめにお恵みをください』って言ってみて?」
「……言ったら、あたしの分のお菓子も作ってくれる?」
「え、作らないけど」
「だと思ったわよもぉーっ!!」
涙目のアリシアがメイド服の首元に掴みかかって来た。
そのまま前後に揺さぶられる。
「ふぎゅぅ!? くるちぃ……っ、くるちぃよアリシア!? つくる、おかし作るからぁっ!?」
「ほんとっ……!? あ、ごめん」
我に返ってくれたのか、アリシアはすんなりとメイド服の首元を解放してくれる。
アリシアの分まで作ると言った手間、作らないわけにもいかない。
普段はクッキーやマカロンのような簡単に食べられるお菓子を作るけど、今日はアリシアも一緒だからもう少しボリュームのあるお菓子を作ってみようかな?
何か良いレシピはないかな、と古臭いノートのページを捲っていく。
「そう言えば、ずっと気になってたんだけど、そのノートってあんたが持って来たの?」
「ううん。この厨房で見つけたんだよ。前に働いていた人が書き残したものだと思うけど」
でも、ノートに名前が書かれているわけでもない。
料理の詳細なレシピだけじゃなく、書き記された当時お城に居たらしい王族全員の好みまで事細かに記入されているのに。
「あんたの料理のレパートリーがやけに多いと思ってたけど、こういうことだったのね」
アリシアは納得したと言いたげに何度か頷いて、わたしの後ろからノートを覗き込んで来る。
アリシアの吐息が、耳元のすぐ近くにあってこそばゆく感じた。
「ミナリー、ちょっと見せて」
「あ、うん。破ったりしないでね?」
レシピを書き写したら売り払おうと思ってるんだから。
破れたら価値が下がっちゃうし。
「わかってるわよ。うわっ、全部のページに文字がびっしり」
ノートを手渡すと、アリシアはそのままの姿勢でノートをペラペラと捲り始めた。
それにしても、う、鬱陶しい……。
ここ最近、なんかアリシアからのこういうスキンシップが増えている気がする。
別に嫌ではないんだけど……うん、やっぱり鬱陶しい。
どうやってアリシアを引き剥がそうか。
そう考え始めた矢先、「あれっ?」とアリシアが声を上げた。
何事かと視線を向けると、彼女はわたしにノートの一ページを見せて来る。
「ねぇ、このページだけちょっとおかしくない? ほら、ここだけ一枚が分厚いのよ」
「え? ……あ、ホントだ」
触って確認すると、確かにアリシアの言うようにその一枚だけが他よりも分厚く感じられた。
と言っても、ほんの少しの違いだ。
よくよく見れば、見開きが糊か何かで閉じられていることがわかる。
最後の方のページだから、今まで気づけなかったみたい。
ともあれ、これは糊で閉じられた中身を確認しないわけにはいかないよねっ!
「アリシア、包丁取って!」
「良いけど……指を切らないよう気を付けなさいよね」
「大丈夫だよ、アリシアじゃあるまいし……あっ」
「言った傍から!?」
「冗談だよ、冗談。ほら、何ともないでしょ?」
「紛らわしいことするなぁっ!!」
なんてやり取りをしながら、包丁を使って慎重に糊を剥がしていく。
十分ほどでやっと糊を剥がし終え、わたしとアリシアは互いに頷き合ってページを開いた。
そこに書き込まれていたのは、×印への道順を記した手書きの地図。
「ミナリー、これってまさか……」
「お宝の地図……ッ!?」
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