第34話:村娘、語る
「せっかくだからガールズ・トークをしようよ、アリシア」
同じベッドの同じ布団の中で、背中合わせで寝転んでいるアリシアに声をかける。すると、背後からごそごそっとアリシアが動く気配がした。寝返りを打ったのだろう。
「自慢じゃないけど、あたし今まで友達が一人も居なかったから、ガールズ・トークで何を話せば良いかぜんぜんわからないわ」
「まるで今は友達が居るみたいな言い方だね」
「え、あたしたち友達よね?」
南東地区でチンピラから逃げている時にも言われたけど、落ち着いた状況で改めてそう言われると、何だかむず痒い感じがして仕方がなかった。
考えてみると、わたしのことを友達だと言ってくれたのは、もしかしたらアリシアが初めてかもしれない。
「ガールズ・トークと言えばやっぱり恋愛のこととかじゃないかな?」
「ちょっと、スルーしないでよ!? というか、れ、恋愛って……そう言われても、あんまりよくわかんないわよ」
「アリシア、好きな人とか居ないの?」
「は、はぁっ!? い、居るわけないでしょ、す、好きな人なんて!」
その反応が『好きな人が居る』ことを物語っているけど、あえて指摘はしないでおこう。
「じゃあ、好きなタイプは? さすがにそれくらいはあるよね?」
「う、ぅえーっと……。優しい人、とか?」
「王様みたいな?」
「ぶふぁっ!? ど、どうしてここでシュード様が出てくるのよ!? そ、そりゃ、シュード様もお優しいところがあるけど…………うぅ」
「冗談だよ、冗談。他には?」
「ほ、他って……そ、そうね…………。見守ってくれる感じの人……だったり?」
「やっぱり王様じゃん」
「違うわよ!!」
ホントに違うんだからね!? と背中をポンポン叩いてくるアリシア。
ここまで否定するってことは、本当に王様じゃないのかな? まあ、別にどうでも良いっちゃ良いけど。
「そ、そういうあんたはどうなのよ!? 要領の良いあんたなら、故郷の村に彼氏の一人や二人くらい居たんじゃないの!?」
「ふぇっ!? わ、わたしはそんなふしだらな女じゃないよっ!」
「ふんっ、どうだか。あんたのことだから、村の男たちに何かと貢がせてたんじゃないの?」
「うっ、それは否定できないけど……」
隠すことのできないわたしの美少女オーラが、貧乏村の男たちを誘惑していたのは確かだった。
告白された回数なんてもう覚えてないくらいだけど、貧乏人と結婚するつもりのなかったわたしは、その告白を一度だって受けたことはない。
もちろん誰かとお付き合いをした回数は0だ。
そのことをアリシアに一から説明すると、彼女は深い溜息を吐いた。
「あんた、本当にぶれないわね……」
「ふふんっ、まあねっ!」
「褒めてないから誇らしく思うな……ったく。じゃあ、貢がせてたうんぬんは何だったのよ? もしかして、断った男に『お金をくれたら付き合ってあげても良いよ?』とか言ってたんじゃないわよね?」
「…………………………」
「おいこらっ! あんた、まさか!?」
「じょ、冗談だよ、冗談。そういう感じじゃなくて、単純にわたしに好かれようとした人たちが色々とプレゼントをくれたの。それだけのことだよ」
「本当でしょうね?」
「もちろん! まあ、ほとんど要らない物だったから、王都に野菜を売りに行くついででお金に変えちゃったけど」
「あんたってやつは……」
呆れたと言いたげに再び溜息を吐いて、アリシアはまたごそごそと寝返りを打ったようだった。
互いの背中がピッタリとくっつく。
アリシアの温もりはちょっと心地よかった。
「……ねえ、ミナリー。あんたは、村に帰りたいって思わないの?」
「え、どうして?」
「どうしてって、ここで働くようになってから、一度も帰りたそうにしてないから……」
「うーん……。別に帰らなくて良いかなぁー。今の生活の方が村に居た頃よりも好きだし」
「そっか……そうなんだ……。えへへ……。おやすみ、ミナリー」
「あ、うん。おやすみ、アリシア」
質問の意図はよくわかんなかったけど、そう言えば、村に帰ろうなんて一度も考えたことがなかった。
いちおう、王城で働くことだけは伝えてるけど、心配されてるのかなぁ。
まあ、良いかぁ……。
まどろみに身を委ね、意識は次第に闇へと落ちていく。
その日は久し振りに、村に居た頃の夢を見た。
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