第23話:ポンコツ、照れる
その後、あたしたちを追って来た男たちはお姉さまのお供をしていた王国騎士団の人たちにコテンパンにされて逃げ帰って行った。
王城への帰路の途中、あたしたちから事情を聞いたお姉さまは大きな溜息を吐く。
「まったく……。私が南東地区の視察に訪れていなければどうなっていたことか。南東地区には絶対に近づかないようにと、口酸っぱく言っていたはずですよ、アリシア?」
「はい……ごめんなさい」
お姉さまの言う通りだ。
道に迷って偶然立ち入ってしまったとはいえ、南東地区に入ってしまったのはあたしの責任。
お姉さまが居なかったどうなっていたか。
「ミナリーもミナリーです。私はこのような事態にならないため、あなたをアリシアに同行させたのですよ?」
「えぇー。そう言われても、わたし王都の地理にあんまり詳しくなかったし。そもそもマーケットがあること知らなかったもん」
「……えっ? そうなのですか?」
「うん。だから何の役にも立たないって言ったのに」
ミナリーの言を聞いてお姉さまは苦い顔を浮かべた。
そこへ追撃をするように、ミナリーは「そもそも」と続ける。
「道に迷ったのはアリシアだけど、アリシアに買い物に行かせたアリスも悪いと思うよ。ほとんどお城の外に出たことのないアリシアに地図を持たせず買い物に行かせるなんて、迷ってくださいって言ってるようなものだよ」
「そ、それは……」
お姉さまは言葉を詰まらせた。もしかしてミナリー、あたしを庇って――
「つまり! アリシアのポンコツ具合を見誤ったアリスにも今回の責任はある!!」
「……って、おいこら、誰がポンコツよ!?」
「確かに……」
「お姉さま!?」
お姉さまが『ポンコツ』を否定してくれなかった。
それどころか口元に手を当てて神妙な面持ちを浮かべている。お、お姉さまぁ……。
「…………ミナリーの言葉にも一理ありますね。今回の件は、地図を用意しなかった私にも責任の一端があるでしょう」
「そうだよ! まったくぅ、アリスが地図を用意しなかったせいでわたしまで酷い目にあるところだったじゃん! と言うわけで、危険手当の給付をお願いします!!」
「それは却下です」
「即答っ!?」
「確かに私は地図を用意しませんでしたが、あなたたちは危険に自ら飛び込んで行ったも同然です。これで危険手当を給付したら、あなたは危険な真似を何度も繰り返すでしょう?」
「うっ……。否定できない」
「自覚があるのであればよろしい。危険手当は諦めなさい、ミナリー」
「そんなぁ……」
「…………ともかく、二人が無事でよかった」
お姉さまは厳しい表情を崩して、安堵したかのような笑みを零した。
それからすぐ、建物の間から王城が見えてくる。
「遅かったな、三人とも。何かあったのか?」
王城のエントランスであたしたちを出迎えたのはシュード様だった。
きっと、帰りの遅いあたしたちを心配して待ってくれていたのだと思う。
あたしたちの王様はそういう人だ。
「あ、王様! アリスったら酷いんだよ。わたしたちが大変な目にあったって言うのに危険手当を給付してくれないって――むぐぅっ!?」
「あなたは黙って居なさい! ……我が王、実は」
お姉さまがミナリーの口を塞ぎながら事の顛末をシュード様に伝える。
それを黙って聞き終えたシュード様は、心配げな表情を浮かべた。
「二人とも、怪我はないか?」
「痛たたた! さっき男の人に殴られた箇所がぁ! これは危険手当が必要だぁ!」
「今さっきまでまったく痛がる素振りを見せていませんでしたよね?」
お姉さまとミナリーのやり取りに苦笑したシュード様は、あたしへと視線を向ける。
「アリシアは、大丈夫だったか?」
「えっ、あ、はいっ!」
「そうか。良かったよ、無事に帰って来てくれて」
「――ッ~~!!」
シュード様の安堵の笑みに全身が熱くなる。
ど、どうしよう、顔赤くなってるわよね!?
「よし。二人も無事に帰って来たことだし、食事にするか。実はさっきから腹が減って仕方がなかったんだ。帰って来てすぐで悪いが、食事の準備に取り掛かってくれるか?」
「…………………………………………………………………………………………………あっ」
……そう言えば、買い物するのをすっかり忘れてた。
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