第20話:ポンコツ、おつかいに行く
「本当に大丈夫なのですか、アリシア。一人で城下に出るなんて……」
「大丈夫よ、買い物くらいっ! お姉さまったら心配症なんだから」
「毎度毎度、心配させるのはあなたではありませんか、まったく……」
はぁ……、と溜息を吐くお姉さま。
ことの発端はいつも食材を届けてくれる商人さんが、納品の期日から三日過ぎても現れなかったことだった。
お姉さまが確認を取ると、何でも王都までの道のりの途中で荷馬車が壊れてしまったらしく、近くの村に立ち往生してしまっているらしい。
荷馬車の中身が生ものだったこともあり、荷馬車が直っても商人さんはこのまま王都に来るわけにもいかず、お姉さまによると生ものが届くまで最低でも一か月はかかるそうだ。
当然のように一か月も食糧庫の生ものを空にするわけにはいかず、南東地区にあるマーケットまで調達しに行く必要があった。
けれど、お姉さまには折悪く外せない仕事があったから、お姉さまの負担をこれ以上増やさないためにもあたしが買い物を引き受けたのだ。
「……仕方がありません。ミナリー、暇ならアリシアと買い物に行って来てください」
「ええっ!? なんでわたしが……たぶん何の役にも立たないよ?」
厨房のテーブルでクッキーを食べていたミナリーが心底面倒臭そうな顔をする。
「私はこれから外せない公務に出なければなりません。一方、あなたは城の大切な食材を使って勝手にクッキーを作ってしまうほど暇なようですので。――材料費を給料から引かれたくなければアリシアと共に買い物へ行ってきなさい」
「了解です、アリス様っ!!」
こうしてあたしとミナリーは、城下の市場まで買い物に行くことになった。
王城を出てすぐ、あたしたちは人通りの多い道を南に向かって歩いていた。
「うぁーん、面倒臭いよぉー」
いつものメイド服でなく町娘然とした青のワンピースと白のエプロン姿でバケットを持ったミナリーが、肩を落としながら心の声をはばかりなく口にする。
ちなみにあたしもメイド服じゃなくてお姉さまが用意してくれた町娘の服装だ。
「こんな服、アリスはどこで用意してきたんだろう? もしかしてアリスの私服だったりするのかなぁ?」
「お姉さまに限ってそんなわけないでしょ。騎士団か衛兵の誰かに買って来させたのよ」
「それにしては用意するのが早かった気がするけど……まあそうだよね」
でもやけにリボンやフリルだらけだなぁ、とミナリーはくるくる回りワンピースの裾をはためかせる。
薄茶色の髪でややあどけない顔立ちの彼女には、町娘の格好がとても良く似合っていた。胸元もそれなりに膨らんでいる。
あたしなんてスカスカなのに……っ!!
「それで、わたしたちはどこに行けば良いの?」
「えっ? えーっと……南西地区のマーケットよ」
「へぇー。南西地区にマーケットがあるなんて知らなかったよ」
「あんたは知ってると思ってたけど……ちょっと意外だわ」
「王都には何度も来たことがあったけど、北東地区の路上で野菜を売ってただけだから」
てっきり、ミナリーはあたしなんかよりもずっとお城の外に詳しいと思っていた。
だからミナリーに色々と城下町を案内してもらおうと思っていたんだけど…………あれっ?
と言うことは、ミナリーもマーケットがどこにあるのか知らないわけよね?
あたしはミナリーが知っているとばかり思っていたから、お姉さまからマーケットの場所を聞かないままお城の外に出て来ちゃったわけだけども…………。
「どうしたの、アリシア。急に汗なんか流しちゃって。お腹痛いの?」
「ち、違うわよっ?」
「そう? なら良いけど。それじゃ、マーケットに行ってさっさと買い物終わらせよう」
「え、ええ。そうねっ」
ど、どうしよう。お城からはもうそれなりに歩いてきちゃっているし、今さら場所がわからないからってお姉さまに確認しに戻るわけにもいかない。
それにもう、お姉さまは公務に向かっている頃だし。だからと言ってシュード様に尋ねるわけにもぉ……っ!
「あたしはどうすれば…………………………って、ミナリー?」
ふと気づくと、隣に歩いていたはずのミナリーの姿が見当たらない。
まさかはぐれた!? と思って振り返ると、彼女の姿はすぐに見つかった。
魔導石で動く機器……魔導機器の販売店の前で立ち止まっている。
「何やってるのよ、ミナリー。さっさと買い物を終わらせるって言ったのはあんたでしょ!」
「あ、うん。ごめんごめん」
まったく、人の気苦労も知らないで。
とりあえず、南西方面っていうことは左に行けば良いのよね。あとは道行く人にそれとなく場所を尋ねれば、確実にたどり着けるはず。
……だったのだけど。
「ねえ、アリシア。ここ、マーケットと言うよりスラム街なんだけど」
「き、奇遇ね。あたしにも、そうとしか思えないわ」
気づいた時にはもう遅く、あたしたちは
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