第18話:村娘、入浴する
メイドの仕事は、浴室の掃除で終わる。
「広いお風呂って良いよねぇ……」
掃除を終えて温かいお湯に肩まで浸かると、足を目いっぱい伸ばせる湯船はとても心地が良かった。
貧乏村出身のわたしにとって、お風呂が温かくて足を自由に伸ばせるなんて、人生で何度と経験したことのない贅沢だ。
「ミナリーの家だと、お風呂はもっと小さかったの?」
湯船の縁に座るアリシアは、足だけをお湯につけて半身浴を楽しんでいた。
小ぶりな胸元からときおり水滴が伝って、彼女の綺麗な臍へと流れている。
「そりゃ小さかったよ。足が伸ばせないし、普段は水でお湯には滅多に入れないし」
「え、嘘でしょ!?」
「ほんとほんと。ド田舎の貧乏村なんて、そんな感じだよ」
「へ、へえ。ミナリーってけっこう苦労してたんだ……」
「その苦労の末にそのような性格になったのだとすれば、国の財政再建を任されている私にも責任があるということになりますね」
湯船に浸かっていたアリスは、どこか皮肉めいた笑みを浮かべた。
そんな彼女の言葉にわたしはうんうんと頷く。
「ホントだよホントだよ。格差反対ぃー! 給料上げろぉー!」
「あなたはもう格差の上の方に居るのですよ。格差反対と言うのならば、まずはあなたの給料から下げなければいけませんね?」
「格差賛成! 貧乏人がのたれ死のうが知ったこっちゃないよっ!」
「清々しいまでの守銭奴ですね……」
呆れて物も言えませんと、アリスは大きな溜息を吐いた。
それに合わせて、彼女の胸元から大きな波紋が生まれる。わたしは波紋を生み出したそれに、目が釘付けになった。
「国内の格差社会も問題だけど、こっちの格差社会も問題のような気がする……。アリシアもそう思うよね?」
「なんであたしに振るのよ? …………でも、確かにそうね。脅威の格差社会だわ」
「あ、あの……ど、どうして二人とも私の胸を凝視しているのですか……? わ、私は先に上がっています。お湯を抜くことを忘れないでくださいね!」
危険を感じ取ったのか、アリスはその場に立ち上がって湯船から出ようとする。
その瞬間、胸囲の格差社会をわたしたちは目の当たりにした。
大きさだけじゃない。形も、色も、何もかもが完璧なそれは、脂肪の塊という概念を超えたまさに……大量殺戮兵器ッ!!!!
「逃がすな、アリシアっ!!」
「言われなくてもッ!!」
「あ、あなたたち何を――きゃあっ!?」
アリシアが前に回り込んで動きを封じた隙に、後ろからアリスを羽交い絞めにする!
「このっ……放しなさい、ミナリー!」
「ふっふっふ。観念しなよ、アリス! さあ、アリシア! 揉めっ!!」
「ま、待ちなさい、アリシア! あなたは姉である私を裏切ると言うのですか!?」
「お姉さま……………………あたしの料理を粗末だって言ったこと、忘れてないから」
「それはさっき謝ったでしょう!?」
「お姉さま覚悟ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」
――ボニュンっ。
「ふぉおおおおおお!? な、なにこれ! なにこれ!? 柔らかい? でも、弾力もある!!」
「んぁっ……、だめっ……ん! や、めなさぁあっ……! あ、アリ……シア……ぁんっ」
「す、凄い! 手から溢れるこの感じ凄いっ! お姉さまの胸凄いわよ、ミナリーっ!」
「え、アリシアだけズルい! わたしも触りたい!!」
「あ、こらっ! お姉さまから手を放したら――きゃああああああっ!?」
それはほんの一瞬だった。
次の瞬間、彼女はアリシアの背後に回っていた。
拘束されたアリシアは苦悶の表情でわたしに手を伸ばす。
「助けて、ミナリー……っ」
「あ、アリシアを解放して、アリス……っ!」
「それは構いませんが、代わりにあなたを拘束するだけですよ?」
「やっぱりそのままでお願いします!」
「おいこらっ!!」
アリシアが「裏切者ぉー!」とか叫んでいるけど気にしない。
「さあ、ミナリー。何をすれば良いかわかっていますね? ――……揉みなさい」
「う、嘘よね……!? ミナリー、そんなこと、しないわよね……?」
怯えた表情を見せるアリシア。
……わたしは、ゆっくりと首を横に振る。
「…………できないよ、アリス」
「では、あなたが代わりになりますか?」
「違うの! そうじゃなくて……。……揉める胸が、どこにも……ないんだよ…………」
「少しはあるわよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」
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