第125話 変化(14)
「……うっ………がはっ……げほっ、…………………うぇっ……はっ………はっ」
家に戻るとせり上がってくる吐き気に耐えきれずトイレに駆け込んだ。空っぽの胃が激しい痛みを訴えても何度も嘔吐を繰り返し、唾液を出すことすら苦痛になってからようやく身体を起こす。
口の中は吐き出した胃液の味が広がっており、今すぐゆすぎたいものの身体はぐったりと重く、壁に寄りかかって荒い呼吸を整える。
「歩」
コンコンとドアを叩く音と共に聞こえてきた花江の声にはっとして、滲んだ涙を拭うと顔を上げた。
「何?」
「どこか具合悪いの?」
「ううん。
ちょっとお腹が痛かっただけだから」
ドア越しの明るい声に納得したのかそのまま花江の声が聞こえなくなる。今すぐにでも倒れこみそうな身体を起こし、静かになった廊下を確認するようにトイレのドアを開ける。
「あ……」
壁にもたれる様に待っていた花江と目が合い、さっと血の気が引いた。
「歩、こっちに来なさい」
表情を変えないまま花江がリビングに移動する。今まで聞いたことのない花江の強い口調に抵抗することを諦め、後を追った。
◇
ソファーではなくテーブルの方へ座った花江に倣い、向かい合うように腰を下ろす。俯いた歩の頭に花江の視線が真っ直ぐに刺さるのを感じながら、花江の纏う雰囲気に顔を上げれずにいる。
「歩」
「……はい」
「正直に答えて。
体調が悪いのはいつから?」
「……よく覚えてないけど……多分……今月に入ってから、だと思う……」
「吐き気以外に症状は?」
「……胃が痛くて……時々、その、ふらついたりする、くらい?」
「……」
歩の答えに何故か花江が絶句した。そんな花江の態度に疑問を浮かべながら恐る恐る呼び掛ける。
「……花ちゃん?」
「歩」
「は、はい……」
「歩は体調不良の原因に心当たりがあるの?」
「え?
……原因って?」
「例えば、避妊せずにセックスしたりとか?」
「!?」
あまりにも直接的な単語に言葉を失うも、花江の表情は変わらない。そこでようやく花江に妊娠を疑われていることに気づき、頭が真っ白になった。
「ち、違うっ!!
私、そんな事してないからっ!」
「別に責めてる訳じゃないのよ。
ただ、もしその可能性があるなら、」
「止めてっ!!」
大声で拒絶した歩に花江が口を閉じたものの、その表情はますます真剣味を帯びるばかりで、打ち明けられないもどかしさと今まで溜め込んでいた負の感情に我を忘れ立ち上がった。
「止めてっ! そんな話聞きたくないっ!!」
「歩!
落ち着いて……」
花江の制止を振り切って自室に籠ると、花江が入ってこない様にドアを押さえつける。
「歩!
待って、話を聞いて」
「聞きたくないっ!
私、そんな事なんかしてないから!
こっちに来ないで!!」
半狂乱で泣き叫んでいた歩のみぞおちに激痛が走り、思わずその場に崩れ落ちる。
「……歩!? どうしたの?
歩!?」
急に静かになった室内に花江が声を掛けるも、ドアの向こうから返事は無かった。
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