第81話 おおかみ町大根やぐら (8)
「それではお疲れ様でしたー」
アルコールが入った後特有の陽気な挨拶が終わり、座っていたメンバーがぞろぞろと外に向かっていく。
「ありがとうございました!」
レジ前で「ご馳走さん」「お疲れさま」と様々な返事をもらいながら一人一人を送り出していく。片付けが残っているものの無事に終わったことで歩の声も自然と明るくなった。
「ご馳走さまでした。
美味しかったです」
「ありがとうございます」
「あの、また来ますね」
「はい、お待ちしてます」
わざわざ立ち止まって挨拶を返してくれる佐伯に笑顔で応対すると、佐伯が笑みを浮かべて名残惜しそうに出ていく。何となくその姿を見送ると、先程の男性ががしっと佐伯の肩を組んだ。
「佐伯、二次会行くぞ!
お前今日全然飲んでないじゃないか」
「そんな事ないですよ。
アツシさんこそ飲みすぎですって。帰るの遅くなるとまた奥さんに怒られますよ」
「その時はお前が代わりに怒られてくれ!」
「仕方ないですね。じゃあその時は二人で謝りましょう」
「おおー!
それでこそ俺の後輩だ!」
どうやら二次会があるらしく、駐車場で未だにがやがやと立ち止まっているのは場所を決めているためらしい。賑やかな雰囲気を壊さぬようゆっくりドアを閉めると、喧騒が少しだけ遠退いた。
「あ~ゆ~む~、つかれたよ~~」
一番最後まで残っていた春海が歩にふらふらとしなだれかかってくる。その疲労困憊な姿に思わず笑って抱き留めた。
「お疲れさまでした」
「あぁ~とりあえず、やっと終わったぁ~~」
春海の心からの声に今日の苦労が伝わってくるようで、労りの気持ちを込めてぽんぽんと背中を擦る。
「春海さーん、二次会行くよーって、何してんの」
ガランというベルと共にドアを開けた勇太が二人の姿を見て、呆れたように声を掛ける。慌てて手を離した歩とは対照的に落ち着いた顔の春海がどんよりとした様子で振り向いた。
「何って歩に癒されてんのよ。
んで、聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど、二次会あるの? 私、すんごい気疲れしたから今すぐ帰って寝たいんだけど断っていい?」
「別に強制じゃないけど、桑畑さんからのご指名かかってるよ」
「くっ、あのじーさんめ! ………仕方ない。
明日は朝から大切な用事があるって言って一時間で切り上げるかぁ」
「何、その大切な用事って?」
「勇太には内緒。
すっごい大切な用事なのよ」
「どーせしょーもない事でしょう」
「むっ! 勇太、喧嘩なら買うわよ」
「酔っぱらいの相手なんてアホらしくて付き合ってらんねーよ」
「なにー!
ほら、さっさと行くわよ!」
ちらりと歩を見ながら笑った春海と目が合い、春海が人差し指を口元に立てる。その目が楽しそうに細められているのを見て『大切な用事』が明日の歩との約束であることに気がついた。
「あ、待って! 春海さん!」
勇太を引きずるようにドアに向かっていた春海を呼び止めると、冷蔵庫から保冷用のバックに入ったお弁当箱を差し出した。
「今日はきっとご飯食べれないだろうからって、その、花ちゃんが……」
「本当!?
お弁当ありがとー! 花江さん」
ぱたぱたと手を振った春海に気づいたらしい花江がカウンターから笑って手を振る。
「それじゃあ、また来るわね、歩。
ありがとう! 花江さん」
「んじゃな、歩」
「ありがとうございました」
ドアの向こうに消えた二人を見送ると『CLOSE』のプレートを下ろし慌ただしい一日を終えた。
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