第9話 鎮守

 試合の後、会場の周りを探したが水谷の姿はなかった。

   

 結局、今日の試合は神武館Aチームが優勝。天記たちBチームは決勝リーグで敗れて三位という結果だった。

 帰りのバスの中、岳斗も天記も、すでに試合のことはどうでもよくなっていた。


 小学生の優勝が山田美由のチームで、本来ならば機嫌が悪いはずの希々が、なぜかやたらとニヤニヤしてこちらを見ているのが、なんとも気味が悪かった。

 

 天記は疲れていた。龍神の力を使ったことと、その後の試合とですっかり体力を消耗していた。バスにしばらく揺られていると、いつの間にかまぶたが重くなり、岳斗の肩にもたれかかって眠ってしまった。


 結局、家に着いてから話をする気力は残っておらず、明日また集まろうということになった。



      ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎



 次の日は日曜日、岳斗の部屋の地下室で、天記、竜之介、希々、紫龍、赤龍、それにチシャ、この地下室にこんなに人が集まるのは初めてだ。

 そもそも、希々は自分の家の地下に、こんな空間があるなんて知らなかった。しかし、希々は驚くどころか、まるでテーマパークにでも来たかのように、ワクワクしているようだった。


 チシャが、希々の膝の上でゴロゴロと喉を鳴らして甘えている。岳斗も天記も、あまりいい気分がしなかった。気の強いあの二人が仲良くなるのは、それはそれで怖い。

 地下室の中央にある大きなテーブルを囲むように座ると、竜之介が話し始めた。


 「昨日のことは水谷の仕業なんだね。岳斗が試合してる時まではアイツ、二階席で俺達と一緒に応援してたんだ。いつの間にかいなくなっててさ。あのカラスが雪崩れ込んで来た時には、ホントびっくりしたよ」 


 竜之介は、小学生最後の試合でエンキと戦ってからというもの、すっかり仲間になっていた。昨日の試合でも、一度は他の人たちと一緒に、マネキンのように時を止められた。しかし、記憶を消されることなく全てを見たまま覚えていた。


 「俺も、水谷が二階席にいるのを見たんだ。でも、なんか嫌な予感がしてさ」


 岳斗がそう言うと、希々がおかしな事を言い出した。


 「不思議なものを見たの。外に止まってたカラス達が、体育館の中にブワーッて入ってくる映像が頭の中に浮かんだのよ。まさかホントになるとは思わなくてびっくりしたの」


 皆が一斉に希々を見た。


 「どういうこと?希々今までにもそんなことあった?」


 天記が聞くと、希々は首を横に振った。

 希々の隣に座っていた岳斗が、ちょっとふざけて希々の額に手をやり


 「熱があるわけじゃないよな?」


と、言った。

 岳斗をにらんでその手を振り払ったとき、希々は何かに気づいて、振り払った岳斗の手をつかんだ。


 「このブレスレットについてる石、あの子のと同じだ」


 岳斗の付けているブレスレットは、普通の人間には見えない。この中で唯一、竜之介だけがその存在すら知らない。


 「希々見えるの?」


 天記が驚いて聞いた時、竜之介は周りの反応に、何が何だかわからない様子だった。


 「それよりあの子って誰?」


 岳斗はもちろん、自分と同じ物を持っているその子が気になって仕方がなかった。

 希々は昨日、あの時に起こった出来事を事細かに話して聞かせた。

 大きなブロッコリーのような森のこと、鳥居と階段に立っていた少年のこと、父親のことを知っていたということ。

 すると、紫龍がこう言った。


 「鎮守ちんじゅじゃ」


 「ちんじゅって?」


 岳斗が聞くと、紫龍は少し長くなると言いながら話し始めた。



              つづく

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