第9話 鎮守
試合の後、会場の周りを探したが水谷の姿はなかった。
結局、今日の試合は神武館Aチームが優勝。天記たちBチームは決勝リーグで敗れて三位という結果だった。
帰りのバスの中、岳斗も天記も、すでに試合のことはどうでもよくなっていた。
小学生の優勝が山田美由のチームで、本来ならば機嫌が悪いはずの希々が、なぜかやたらとニヤニヤしてこちらを見ているのが、なんとも気味が悪かった。
天記は疲れていた。龍神の力を使ったことと、その後の試合とですっかり体力を消耗していた。バスにしばらく揺られていると、いつの間にかまぶたが重くなり、岳斗の肩にもたれかかって眠ってしまった。
結局、家に着いてから話をする気力は残っておらず、明日また集まろうということになった。
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次の日は日曜日、岳斗の部屋の地下室で、天記、竜之介、希々、紫龍、赤龍、それにチシャ、この地下室にこんなに人が集まるのは初めてだ。
そもそも、希々は自分の家の地下に、こんな空間があるなんて知らなかった。しかし、希々は驚くどころか、まるでテーマパークにでも来たかのように、ワクワクしているようだった。
チシャが、希々の膝の上でゴロゴロと喉を鳴らして甘えている。岳斗も天記も、あまりいい気分がしなかった。気の強いあの二人が仲良くなるのは、それはそれで怖い。
地下室の中央にある大きなテーブルを囲むように座ると、竜之介が話し始めた。
「昨日のことは水谷の仕業なんだね。岳斗が試合してる時まではアイツ、二階席で俺達と一緒に応援してたんだ。いつの間にかいなくなっててさ。あのカラスが雪崩れ込んで来た時には、ホントびっくりしたよ」
竜之介は、小学生最後の試合でエンキと戦ってからというもの、すっかり仲間になっていた。昨日の試合でも、一度は他の人たちと一緒に、マネキンのように時を止められた。しかし、記憶を消されることなく全てを見たまま覚えていた。
「俺も、水谷が二階席にいるのを見たんだ。でも、なんか嫌な予感がしてさ」
岳斗がそう言うと、希々がおかしな事を言い出した。
「不思議なものを見たの。外に止まってたカラス達が、体育館の中にブワーッて入ってくる映像が頭の中に浮かんだのよ。まさかホントになるとは思わなくてびっくりしたの」
皆が一斉に希々を見た。
「どういうこと?希々今までにもそんなことあった?」
天記が聞くと、希々は首を横に振った。
希々の隣に座っていた岳斗が、ちょっとふざけて希々の額に手をやり
「熱があるわけじゃないよな?」
と、言った。
岳斗をにらんでその手を振り払ったとき、希々は何かに気づいて、振り払った岳斗の手をつかんだ。
「このブレスレットについてる石、あの子のと同じだ」
岳斗の付けているブレスレットは、普通の人間には見えない。この中で唯一、竜之介だけがその存在すら知らない。
「希々見えるの?」
天記が驚いて聞いた時、竜之介は周りの反応に、何が何だかわからない様子だった。
「それよりあの子って誰?」
岳斗はもちろん、自分と同じ物を持っているその子が気になって仕方がなかった。
希々は昨日、あの時に起こった出来事を事細かに話して聞かせた。
大きなブロッコリーのような森のこと、鳥居と階段に立っていた少年のこと、父親のことを知っていたということ。
すると、紫龍がこう言った。
「
「ちんじゅって?」
岳斗が聞くと、紫龍は少し長くなると言いながら話し始めた。
つづく
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