09話.[それだけかーい]

「瑞月ちゃん」

「あ、未来」


 玄関前でぼけっとしていたら未来がやって来た。

 正直に言って、また話しかけてこなくなると思っていたから意外だった。


「霞ちゃんや安里ちゃんと話してきたよ」

「喧嘩みたいにならなかった?」

「うん、この前のは私が悪いから気をつけたんだ」


 横いいかと聞いてきたから許可する。

 好きにしてくれればいい、未来のことが苦手ではないし。


「私、瑞月ちゃんともっと仲良くしたかった」

「え、そうなの? その割には伊代とばかり仲良くしていたと思うけど」

「もう聞いたかもしれないけど中学時代の瑞月ちゃんは怖かったんだよ」


 彼女は小石を拾って投げつつ「最近もそうだったけど」と教えてくれた。

 それはあれだ、みんなが伊代ばかり優先するから寂しかったのだ。

 ただ、寂しがったところで来てくれるわけではないから拒絶をしたというだけ。


「だからこれからも仲良くしてね」

「それはこっちのセリフだよ、それに怖かったのは最近の未来だから」

「……伊代ちゃんが瑞月ちゃんのことを好きなのは見ていれば分かったし、それにせっかく遊びに来ているのに持ち込んで空気を壊すからさ」

「まあそうだよね」

「……それに面白くなかった、瑞月ちゃんが伊代ちゃんと仲良くするのが」


 と言われてもなあというのが正直なところ。

 最近は喧嘩ばかりだった、なんなら最悪離婚すらあったかもしれない。

 私があのときご飯を買って食べて腹痛になっていなければその可能性は高かった。

 喧嘩した状態のまま離れることになってしまったはずだ、それで実の父とも関係が悪くなって会話すらなくなってしまったかもしれないし。


「だから私のこと忘れないで」

「忘れられないよ、一緒のクラスなんだから」

「好き」

「はは、ありがとう」


 そのとき、遠くの方からふたり組が歩いてくるのが見えた。


「やっほー」

「……私は別に来たくなんかなかったけどね」


 霞らしい霞と安里らしい安里だ。


「伊代はどうしたのよ」

「それが今日は引きこもっているんだよ、ふたりが行けば出てくれるかもしれないよ?」

「それなら行ってくるわ、話したいこともあったし」


 さあ、私が本当に気になっているのは霞の方だ。

 なにを言われるのか、また、なにかを言いたいならここで聞くつもりでいる。


「瑞月ちゃん」

「なに?」

「今度、伊代ちゃんとお出かけしてもいい?」

「それは伊代次第だから」

「だよねっ、知ってたっ」


 って、それだけかーい。

 そこからは未来と楽しそうに話をするだけだった。

 未来がこの前のことを謝罪し、霞もこの前のことを謝罪をする。

 うん、このふたりはやっぱり仲良しだ、伊代がいなければ可能性があったかもね。


「駄目だった、全く出てこないわ」

「安里は嫌われているんじゃないの?」

「は?」

「は? なに?」

「「まあまあ、喧嘩はやめようよ」」


 仕方がない、霞と未来に止められたんじゃね。

 四人で喫茶店に行こうということになったからお金を持って行くことにした。

 伊代にはなにかお土産を買って帰れば拗ねられることもないだろう。


「瑞月、あんたのちょっとちょうだい」

「仕方がないなあ、ほら、食べなさい」

「むかっ、あんたねえ!」

「「私が貰うよっ」」


 というわけで、最近のはなんだったのかというぐらい平和な時間を過ごせた。

 みんな表だけではなくきちんと楽しめていたと思う。

 最初からこうだったら……と思わずにいられなかったのだった。

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