少し時間はさかのぼるけど、事件のきっかけはこうだった。


「あ、ソマリどこ行ってたの? ずっと探してたんだよ」

 そんなことをソマリを見つけて駆け寄ってきた魔法使いの女の子、マグは言った。

「別になんでもないよ」

 ソマリはいつものようにそっけない態度でマグにいう。

 ソマリとは幼馴染の関係であるマグはそんなそっけないソマリの態度に慣れていて、なんでもないような口調で「その本、どうかしたの?」とソマリの持っている、なんとなく不思議な感覚を覚える豪華な装飾のされている一冊の分厚い(辞書のようだった)本に目を向けた。

「借りたんだ。それだけだよ」ソマリは言う。

 確かに二人のいるところは世界最大の図書館である北の王国の大図書館であり、本を借りることは別に不自然なことではない。

 でも今は魔法学校の授業中だった。授業中にわざわざ本を借りる必要はない。(授業が終わってからでいい)

 二人がそんな会話をしているとそこに魔法使いの女の子パステルがやってきた。

 魔法学校では三人一組になって授業を受けることが基本であり、ソマリ、マグ、パステルはその三人組のメンバーだった。

 そんな風にして、ソマリとマグがパステルに注意を向けたとき、マグの後ろから一人の黒い帽子付きのローブをかぶった小さな子がどんとぶつかってきた。

「あ、ごめんなさい」とマグは言った。

 でも、その瞬間、マグは自分が手に持っていた自分の大切な魔法使いの杖あその手のひらの中からなくなっていることに気がついた。

 みると、急いで走り去っていく小さな子がマグの魔法の杖を持っているのが見えた。

「え、あ、ちょっと! その杖、私の杖ですよ!」とマグは言った。

 小さな子は返事をしない。

「あれ?」マグは言う。

「もしかして、あの子、泥棒さんですかね?」と二人のところにやってきたパステルはいう。

「え、泥棒?」マグは言う。

 それからマグは小さな子の走り去っていた方向をもう一度見る。

 するともうそこには小さな子の姿は魔法学校の生徒達やたくさんいる大図書館を訪れている人たちの姿に紛れて、見えなくなっていた。

「ちょっと待ちなさい!! 泥棒は犯罪ですよ!!」

 自分に起こった事件にようやく気がついたマグは、そう叫ぶと急いで走ってその小さな子を追いかけ始めた。

 ソマリは壁に背をついて手に持っていた本を読み始める。

 パステルはそんなソマリに向かって「じゃあちょっと行ってきます」と声をかけると、走り出したマグを追いかけて、自分の魔法の杖にまたがって、空を飛んだ。


 そして、現在にいたる、というわけだった。

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