学祭前のトラブル 一五
「あれれ?おかしいですねー…、携帯がないです!」
焦った紅天は教室辺り一面を探した。
持ってきたはずなのですが…。
「はっ!まさか…、どこかで落としてきましたかね?!」
独り言多めに辺りを捜す紅天にたまたま教室に入った空颯が違和感を感じた。
「…咲元さん、何か捜し物?」
「空颯さん…、どうしましょうっ、携帯が…」
泣き気味な声と子羊のような目でそう言う紅天に心をやられた。
「…俺も一緒に捜すよ」
真剣に捜す空颯をみて、携帯よりも先に謝らなくては、そう思った。
「あの…空颯さん」
「ん?見つかった?」
「ち、違います。その、この前はごめんなさい…!」
「…俺こそ酷いこと言ってごめん。また咲元さんとこうして話せて嬉しいよ」
「あのとき私―…」
全て言った。思ったこと全部。
紅天は読んでしまった心の中。そしてこれから自分がどうしたいか。
「心の中を読むのは能力のことがあるし仕方がないよ」
「親に抱く感情や考えとかが空颯さんと私は似ていると思っていたみたいなんです!」
「そうなんだね、親にいい思い出より悪い思い出の方が勝っちゃうよね」
彼は悔しそうに笑った。
その笑顔は完璧な笑顔とは少し違ったものだった。
「私は―完璧じゃない空颯さんをみたいです。苦しいときや辛いときはちゃんと弱って欲しいのです。そんな空颯さんを受け入れたいです!」
まっすぐな目を向けられた。
空颯はそのまっすぐすぎる目から視線を離せなくなっていた。
―完璧じゃない自分をみたい。
―受け入れたい。
空颯は初めて言われた言葉だった。
人生の中で貶したり否定することは簡単だ。だが、受け入れるという言葉は誰もが言える言葉じゃない。本気で覚悟を持った者しか言えない言葉だ。
空颯はその言葉に気持ちが心が掬われたことを実感した。
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