学祭前のトラブル 一〇

「耀くんっ、先程はありがとうございましたっ」


その後すぐにスタスタと自分の部屋へ行ってしまった耀に、紅天は耀の部屋のドア越しからノック音と共に伝えた。


「とりあえずその洋菓子を何作って何種類作るかも決めなきゃだし部屋入って」

「おっ、お邪魔しますっ…!」

「そんな今更緊張しなくてもでしょ…。同じ屋根の下で住んでるわけなんだし」


部屋に入る際、緊張し肩に力が入ってロボット歩きになる紅天に耀はかける言葉をこれでも迷ったらしい。


「あと俺は俺のためにやってるし別に礼の言葉言われることない」


耀は甘いものが好きなである。

家でも何度か紅天がお菓子作りをし、それを実食し作りすぎたお菓子も全て完食する程である。紅天なら美味しく作れるし、自分も美味しいお菓子を食べたい。そう思ったから今回の洋菓子の費用は自分が協力することとしたのだった。


「…あのとき、自分の感情に流されるまま思うことを言ってしまいました。彼が傷つくのを頭の中では理解していたはずなのに」


自分がもっと冷静であれば…と紅天はとても後悔をしていた。


「まあ…確かに冷静って点はかけていたかもね。いっつも喧嘩してる俺が言えることじゃないけど」


ぼそっと言う耀の言葉にうっ…と紅天は胸に刺さった。分かっていても他人に言われるのはとても痛かった。


「でも、優しく言えばいいってわけじゃないじゃん」


優しいだけでこの世の中は成り立つわけじゃないし、時にはキツい言い方だって必要でしょ。と、耀は紅天の言葉に真剣に向き合って言ってくれた。


「ありがとうございますっ…。」

「あいつも本当は真剣に向き合ってくれるあんたみたいなのが必要なのかもね」


「も」ってことは耀くんも…?


耀の心情声はそのとき読めなかった。

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