学祭前のトラブル 八

空颯は小さい頃から「完璧」というものの教育を受けていた。その完璧は今でも呪いのように自分の中から解放されていなかった。


紅天から見て空颯は哀しみと同時にくつくつと怒りの気持ちが湧き出ていた。紅天はそれをわかっていながら、口は止められなかった。


空颯から見た紅天の表情はとても哀しそうで苦しそう。それが自分よりもだった。


(…なんで咲元さんが俺より哀しんで苦しそうな顔してるんだろう)


今の空颯には分からなかった。

なぜ、紅天がここまで表情をあらわにするのか。なぜそんなに必死に言うのか。


「…俺のことなにも分からないくせに。心の声で得た情報の塊なのに。―所詮、君も他人だろ…」


言葉が出なかった。その言葉に対して。

居候をさせて貰ってる身柄なのに偉そうに何を分かったような口を利いていたんだ、と。

彼の言う通り、彼の情報は紅天が彼に口を割って聞いた情報ではない。


私、何をお節介…いや、押し付けがましくうざったらしいことをしてるんでしょう…。


紅天は彼の過去を知っている。それは彼の心情声を読んだからだ。

心情声を読むということは自身の心の中で思っていること、こびりつき鮮明で嫌な記憶が蘇ったときの心情声と感情と共に出てくるメモリーも一緒に見える。


「他人」と言われる前から紅天は分かっていた。

自分がでしゃばっていいはずがなく、これは個人の問題であり、当人が向き合い自分で答えや解決に導いていかなければいけないこと。

自分が口出ししたところで事態は変わらない。むしろ傷だらけの彼を余計に傷つけて痛めつけてるようだと。


わかっていたはずなんですが…。いえ、こんなの言い訳です。


本当の目的、言いたかったことはそんなことじゃなかった。彼を傷つけたいわけじゃなかった。紅天は戯言だと自覚しながらそう思った。

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