夏休みと超能力者たち

過去と紅天 一

「過去があっての自分です…。どうか、自分自身をお嫌いにならないでください」


以前、紅天くれあ琥珀こはくにそう言った。

それは琥珀にだけではなく自分自身にも投げかけた言葉だった。



毎日夜が来るに連れて不安が募る。

八年前の夏夜の八月十四日、ちょうどお盆の時期だった。


所々傷むあざと共に入れられたてんとう虫の絵柄。てんとう虫が背中で毒虫のように暴れ回る。尋常じんじょうなく痛んだ。恐怖で支配される自分。早く死にたい、いつ死ねるのかと問う自分がいた。


保護されて生き延びてしまった。

自分なんて殺されればよかったのに、生き延びたっていいことがない。そう思っていたし、そうなりたかった。悔しかった。苦しかった。キツくて息なんてするもんじゃないとも思った。何も抵抗できないし、しても無駄だと身体がそう判断して意思とは別に動かなかった。


そんな酷い生活から解放されても長い年月が過ぎても恐怖による支配は変わらなく消えなかった。


恐怖による支配を植え付けられ、それに加え、泣くということができなくなった。

泣いたらたれる。泣いたら痛めつけられる。


夢の中でも大嫌いな両親がトラウマが出てきて良かった記憶から悪く、思い出したくない記憶まで夢の中で巡った。


五歳までは優しかった父。昔は精神的にも壊れていなかった母。二人はいつも仲良くてラブラブの自慢の親だった。

いつの頃だろうか。いつから父はあんなふうに変わってしまったのだろうか。

真夜中。食器が割れる音に五歳だった紅天は起きた。


起きて覗くと割れた沢山の食器と、傷だらけで泣く母と、そして怒り狂った父がいた。


「ママ…パパ……??」


父の目はとても恐かった。もうそこには紅天の知った父はいなかった。


元々はヤクザの頭だった父。この頃から母と出会い社会人として普通に生きる道を選んだ父は会社で上手くいってなかったらしい。上司や後輩たちの目も痛く厳しくそれがストレスになったのだった。


そんな父に八つ当たりされた母と紅天。


「お前らさえ、お前らさえ俺と出会って無ければ俺は…!!!」


俺はもっと違う道を歩めた、そう言いたかったのだろうか。

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