第13話 奇跡の一泊二日、名古屋への旅

明治大学の前で美穂さんと待ち合わせ。

どうせ遅刻するだろうと思ったが、2時間も前に明大前に到着し、

「喫茶店はある?早く来れる?」

など立て続けにLineを私に送り続ける。


予定のあった私は慌てて迎えに行き、

「どうしてこんなに早く来たの?」

と聞くと、

「時間を間違えて早く来ちゃった(^▽^)」

そう答えた。相変わらずだ。

35年前から美穂さんは全く変わっていない。


静岡に行く途中もずっとしゃべり続け、とても楽しそうにしてくれた。

私も嬉しくなった。

「どうしてもあの駄菓子を清水で買いたいの!」


彼女は清水のお土産センターで大根の様な大きな駄菓子を大きな紙袋4個分を大人買いをした。

おかげで私の軽自動車の後部座席の半分は、その駄菓子で一杯になってしまった。

私は富雄を後部座席に美穂さんと並んで座ってもらい、会話してもらおうと思い、助手席に駄菓子を移動しようとすると、

「私、後ろに座ると気持ち悪くなるの」

相変わらず、正直でわがままだった。


静岡駅の南口で待つと、富雄はセブンイレブンの袋だけを持ち、軽装過ぎてとても一泊二日の様相では無かった。

しかもその袋から彼が出したのはアイスキャンディー3個だった。

相変わらず、富雄はおしゃれなウケを狙っていた。

55才の男二人と59才の女一人はアイスキャンディーを食べながら、駐車場まで歩いた。

3人再開は富雄の演出で楽しいスタートとなった。


後に富雄が手ぶらだったのは、仕事終わりで家に戻る時間が無く、そのまま会社から私と美穂さんが待つ静岡駅まで来たのが原因だった事を知った。

相変わらず気を遣うやつだった。

ありがとう。


名古屋までの2時間のドライブはあっという間で楽しい会話が途切れる事は無かった。

富雄はマグロの解体マシーンの製造販売の会社で役員をしていて、お得意先は香港マカオのマフィアだそうだ。

マグロは人間と同じ程度のサイズで、一気に細切れにする富雄の解体マシンは、殺人の証拠隠しに使われているのだと言う。

私はすぐにギャグだとわかってが、美穂さんは

「キャー怖い!怖いよううう~」と

本気で怖がってくれた。

昔のままだった。


名古屋での宴会、カラオケ、さらに飲み会、1日目はあっと言う間に過ぎた。



そして翌日、ブルーマンを見た後、また美穂さんのわがままが始まった。

「蓬莱健のひつまぶしが食べたい。どうしても蓬莱健が良いの!」

名古屋の友人が、薦めたらしい。

しかし、美穂さんは言うだけで何もしない。言うだけだ。

私と富雄が調べてお姫様を連れて行くのだ。


マメな富雄はスマホで検索し、数軒の蓬莱健に電話をする。どこも60分以上待ちだと言う。

私が

「ひつまぶしならどこでも良いじゃん」

そう言って、適当な場所を探したが、15時前後の名古屋のうなぎやは何処も休憩時間でやっていない。

仕方なしに松坂屋の蓬莱健まで車で行き行列に並ぶ事にした。

しかし!1時間近く待ったひつまぶしは本当に美味かった。驚いた。



私は皮肉半分に

「美穂さんの何が何でも宝来健に行きたい!という熱い情熱が、私と富雄の心を動かし、この美味いひつまぶしに出会えたのだ。美穂さんありがとう!」

そういうと、美穂さんは

「ほうら主水!私の言った通り美味しいでしょう?」

美穂さんは私の皮肉など、一ミリも気づかず、ひつまぶしの美味しさを自分の料理のように自慢していた。

とても可愛く思えた。

私と富雄が彼女に心底惚れたのは、この紛れもない素直な可愛さと少女のようなわがままだった。


「う巻き、は私が頼んだから、この分は支払うね!」

美穂さんはそう言ったが、昨夜の食事もカラオケも今朝のコメダ珈琲も、私と富雄が支払っていた。

そんな事はどうでもいいほど、彼女のわがままは可愛かった。

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