第11話 美穂さんとの30年ぶりの再会

彼女とはその30年後に再会する。

しかし彼女と私を結び付けてくれた富雄とは、まだ会わずじまいだった。


私は明治大学卒業後、広告会社を点々した後、ブルーマングループの運営会社を作り独立した。

一緒に会社を辞めた荒井は社長として適任で、私は彼を支える役目に徹した。


そんなある日、社長が私に個人的にある人のHPを作って欲しいと頼んで来た。

新幹線で掛川まで行き出会ったS氏は末期がんを治癒できる不思議な人だった。

聞くと、社長の奥様もそのS氏に命を救われたという。

私は、さすがにすぐには信じらなかったが、S氏に当時癌をわずらっていた義理父の写真を見せただけで死期を伝えられ、そしてその日に本当に義理父は無くなり、腰が砕ける程驚いた。


その事に限らず、S氏は様々な事を言い当てるだけでなく、仕事上の悩み、例えば当時悩んでいた部下との接し方にも的確なアドバイスをしてくれた。

何かしらのチカラを持っている「ただ者ではない」事だけは事実だった。


そんなある日、S氏は私に、

「中村さん、あんた21才の時に、女性に酷い事したろうが!その人に謝れ。今からでも遅くない」

そう私に不思議な事を告げた。


私が思い出せるのは長澤美穂だけだった。

どんな酷い事をしたのか、まったく思い出せず、どちらかと言うと私の方が酷い目にあった気がしたが、それでも彼女が突然別れを告げたのは私に原因があったのかもしれない。

彼女を知らず知らずの内に傷つけたのかもしれない。


そして私はその夜、未だ番号を覚えていた彼女の実家に電話をした。

本音は、この電話が繋がるはずがない。

繋がったとしてもきっと結婚して家にいるはずがない。

万が一、家族の誰かが電話に出てくれたとしても、きっと私を怪しみ繋いでくれはしない。

なんせ30年ぶりなのだ。

そう思っていたのだが。。。


電話をすると20歳の頃、何度も電話で聞きなれた美穂さんの母親が出た。

私は

「学生の頃の美穂さんの友人の中村です。美穂さんと連絡を取りたいのですが。。。」

と話すと、美穂さんの母親は

「あ~!中村君?久しぶり~。元気だった?ちょっと待ってね」

30年ぶりに電話しても、まったく変わらない声と調子、そして何より私を覚えていたことに驚いた。


50歳を超えていたはずの美穂さんの声は、あの頃とまったく変わらずセクシーで、まるでタイムスリップしたようだ。

1時間近く電話で話した後、ブルーマングループの公演に招待をした。

2012年3月に六本木ブルーマンシアターで千秋楽を迎える公演だった。

私の肩書き「プロデューサー」の名刺が使えるのも最後かもしれなかった時だ。

ブルーマン公演をもう二度とやれないかもしれないと思った時だった。

それゆえ、若かった時の恋人に。大切な人に見てもらいたかったのだ。

(美穂さんに電話をしたきっかけがS氏のお告げだったことは忘れていた)


公演の後、彼女の家に近い吉祥寺の居酒屋で食事をした。

彼女は2回の離婚を経て、母親と大学生の一人娘と保谷市の実家に戻っていた。

今は鎌倉に住む金持ちの恋人がいて、平和に暮らしているという。


話題は30年前、明大前のボロアパートで半同棲していた話になった。

互いのあの頃の性欲の高さを称え、いかにおバカだったかを笑った。

両親が突然来て、逃げられず、化粧をし始めた事、

美穂さんが大声を出し過ぎて、隣の住人から壁を叩かれた事。

その後、ホームセンターで防音材を買って、一緒に壁に貼った事。

(そのおかげで引っ越しの際、敷金は戻って来なかった)

美穂さんが作ってくれたカレーを牛乳で薄めたら

「わーん、主水酷いよ!カレーが不味いから薄めるなんて!!!」

と怒られた事。

愛欲に溺れた1年間の半同棲生活を振り返り大笑いをした。


「主水!最近年食って思ったんだけどオンナとして見られるには限界があるじゃん。

だからヤレる時に、やっておいた方が、絶対後悔しないと思うの!」


美穂さんはまったく変わっていなかった。

相変わらず本能のままに生きていた。

私達は吉祥寺のラブホテルに行き、昔の様に愛し合った。

変わった事は、美穂さんが電気を消した事だけ。

未だにハリのある胸を私に自慢したが、膨らんでしまったお腹は私に見せられないらしい。


30年前より上手くなっている口技を私が褒めると、

「でしょう!上手になったでしょう?」

と自慢をする。

その少女の様な無邪気さと、エロさは昔と同じだった。

そして深夜1時頃、深夜バスで彼女は自宅に戻った。


美穂さんとはその後も年に1回程度会うようになったが、さすがに昔の様な関係に戻ることは無かった。

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