第138話:将来に向けて

 クラリスが常に俺の事を心配してくれている。

 こんな幸せな人生を迎えられるとは思ってもいなかった。

 転生前とは比較にならないくらいとても幸せだ。

 だから長生きしたいと切実に思う。

 長生きするためならどんな努力も厭わない。

 努力が大の苦手だった前世の俺はどこに行ったのだろうか。


「大丈夫だよ、クラリス。

 サクラがついていてくれるからね、必ず無事に出産できるよ」


 クラリスが2人目の子供を産んでくれた。

 普通ならこの世界の妊娠出産は命懸けだ。

 治療家や産婆の天職持ちがいるお陰で、前世の近世よりは周産期死亡率は低いものの、転生前の平成の世よりはるかに死亡率が高い。

 だがサクラがいるお陰で我が国は平成の世よりも周産期死亡率が低い。

 今回の出産も無事に2人目が生まれた。


「オンギャア、オンギャア、オンギャア、オンギャア」


 クラリスと俺の2人目の子供はとても元気な女の子だった。

 男でも女でも五体満足に生まれてくれれば最高だった。

 出産前、妊娠中に男女を確認することができる。

 サクラが見分けてくれる。

 個人的には事前に知りたいとは思っていないのだが、国王としては別だ。

 王子が生まれるか王女が生まれるかで用意する物が違ってくる。


「ありがとう、頑張ったね、今は休みなさい」


 頑張ってくれたクラリスを心から労わる。


「はい、アレックス」


 長女の名前はミネルバにした。

 クラリスと相談してクラリスの望む名前にした。

 前世の俺は名前に対するこだわりが少しだけあった。

 だがそれは漢字の使い方だ。

 この世界の名前に対するこだわりは全くない。

 だからこの世界の慣習に従って王族に相応しい名前をクラリスが考えてくれた。


 ミネルバが生まれて特に生きなければいけないという想いが強くなった。

 自分が長生きしたいという想いと同時に、ミネルバ、ブロアー、クラリスを護るために長生きしなければいけないという想いが強烈に強くなった。

 だから魔境の異常を放置するかどうかでとても迷った。


 正直に言おう、余計な探りを入れて魔獣を刺激するのが怖い。

 同時に何の調査もせずにスタンピードに対処できないのも怖い。

 調査隊を送るにしても送らないにしても長所短所の両方ある。

 全ては俺の決断次第にかかっている。

 早い話が勘によって決められることになる。


 だから、何があっても対処できるだけの戦力を整えている。

 クラリスは本気で心配してくれているが、サクラの大増強をしている。

 莫大な魔力を使って大ダンジョンで食糧を生産して、キング級スライムを百体以上支配下に置く心算だ。


 それもレベル9のキング級スライムだ。

 そのうちの50体を大魔境に送り込んで威力偵察を行う。

 大魔境の奥深くにいる魔獣が50体のキングスライムでも勝てない相手なら、次の段階に進化させて対処させる。

 それでも駄目なら魔境の奥か反対側に誘導する。 

 さて、どうなる事かな。

 

 

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