第136話:蟲食
率直に言えばどうしても蟲が食べたいわけではなかった。
前世でも虫は食べた事がなかった。
今生では食べてみてもいいかなと思っただけだ。
ゲテモノ食いに多少興味があっただけだ。
クラリスに嫌われてまで食べたいとは思わない。
国民を騙すのには多少抵抗感はあるが、嘘も方便だ。
それに既に側近や護衛を騙している、今更だな。
「余が手本を見せよう」
サクラが俺に変化して貧民の前で蟲を食べている。
ちゃんと料理した蟲だから、全然グロテスクではない。
俺の基準でグロテスクというのなら、蛇や蛙の方が蟲よりもずっと上だ。
王侯貴族の晩餐会で供される、味よりも希少性や価格を重視した魔獣料理に比べれば、蟲料理の方がずっと見た目は悪くない。
多分だが、味も美味しいのだと思う。
「アレックス国王陛下、ほとんどの民が安楽に暮らしております。
ただ極僅かに蟲食に馴染めない民もおりますが、そいう者達は菜食をしたり、蟲や薬草を売った金で肉を買っておりますので、全く問題はありません」
地下都市担当役人が順調だと報告してくれる。
サクラの分身からの報告でも全く問題はない。
成長の早い薬茸の栽培販売で、地下都市に移民した貧民の収入は確保されている。
一番効率がいいのは蟲食だが、蟲で育てたトカゲや蛙を食べる民もいた。
日当たりの少ない地下畑で採れる野菜や茸ではタンパク質が不足するので、それを蟲で育てたトカゲや蛙で補っているのだ。
「大陸各国に薬を輸出して利益を上げるのだ。
地下都市で栽培した薬草や薬茸を中心とした薬を開発してくれ。
今はサクラの分身が治療をしてくれる。
だが余が死んだ後でサクラが同じように働いてくれるとは限らない。
余が死ぬ前には、最低でもサクラを魔界の奥深くに封印する。
だから主を失ったサクラが大陸に災厄をもたらす事はない。
だがサクラの力で行っている事は、全て失われるだろう。
今から代わりになるモノを準備しておくのだ」
「「「「「は」」」」」
俺は日々家臣達に代替わりに備えろと言い聞かせている。
家臣達も真剣に受け止めて日々対策を考えてくれている。
まだブロアーが生まれて1年しか経っていないのに、代替わりの弊害を考えるなど早すぎると思う人もいるだろう。
だが、最初からサクラがいなくなることが分かっているのに、サクラ頼りの政治や政策を行うわけにはいかないのだ。
「無理はしないでね、アレックス。
確かにサクラに頼り切ってはいけないけれど、サクラの力を全く利用しないというのは馬鹿げているわ。
サクラの力で国力を高めて、その国力でブロアーを助けましょうよ」
クラリスの言う通りだ。
今のうちにサクラの力で盤石の基盤を構築するのだ。
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