第135話:溜息・クラリス視点
アレックスが貧民を受け入れだして1年が過ぎました。
私も2人目の子供を懐妊しています。
日々とても幸せな暮らしができています。
サクラのお陰で側近や護衛の目を気にしない生活ができるようになり、今までどれほど周囲に気を配っていたか初めて自覚しました。
のびのびとした解放感を味わえています。
ただ問題が全くなかったわけではありません。
蟲食を導入する時に、私の所為で少し問題が発生しました。
それは今でも尾を引いている問題なのです。
全く個人的な好き嫌いの問題ですので、大きな声では言えません。
だから今でも国民を欺き続けています。
国民を護り食べさせていく責任のある女王ならば、絶対に口にしてはいけない事だと分かっています。
分かっていますが、どうしても好きになれないのです、蟲は。
近づくのも嫌な蟲を食べるなんで、絶対に嫌です。
最初にアレックスから蟲を試食すると聞いた時には信じられませんでした。
直ぐに背中にどうしようもない悪寒が駆け上りました。
背中だけでなく全身に嫌悪感が広がりました。
その場で直ぐに反対したかったのですが、真剣なアレックスの表情を見て、必死で反対意見を飲み込みました。
アレックスから導入する理由を詳しく聞いて、冷静に考えました。
考えて考えて、反対意見を心の中に納めました。
反対意見は納めましたが、とても試食なんてできません。
蟲を食べたアレックスと褥を供にできるとも思えません。
キスなど考えられません。
このままでは夫婦関係に亀裂が生まれてしまいます。
「アレックス、理由はよく分かったわ。
だから反対はしません。
でも正直な話、蟲を食べたアレックスとはキスもできなくなるわ。
だからお願い、私のために試食するのは止めて、お願い」
アレックスはとても真剣に考えてくれました。
アレックスが試食する事の利点と、私と一緒にいられなくなる欠点を、よくよく考えてくれているのだと思います。
夫婦の事や家族の事、個人的な感情を政治に持ち込んではいけません。
そんな事は幼い頃から叩き込まれています。
ですが蟲を食べるのは絶対に嫌です。
蟲を食べたアレックスと一緒にいられなくなるのも嫌です。
「分かったよクラリス。
夫婦家族の絆を断ち切ってまで試食をする必要はないよ。
試食は蟲食に抵抗のない人達にやってもらうよ。
その上で彼らに貧民指導を頼むようにするよ」
アレックスが政治よりも私を優先してくれました。
思わず涙が流れてしまいました。
「恐れながらアレックス国王陛下、クラリス王妃殿下、少し宜しいですか」
「なんだい、サクラ、何か献策かい」
「はい、献策させていただきます。
私がアレックス国王陛下のお姿を真似て蟲を食べます。
その姿を国民に見せるのです、アレックス国王陛下、クラリス王妃殿下」
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