第132話:仁道

 まるで憑物が落ちたようにスッキリすることができた。

 全部クラリスのお陰だ。

 俺にとってクラリスは絶対に失えない大切な人だと改めて分かった。

 クラリスの優しい心が俺の心を正常に保ってくれる。

 毎日あの胸に甘える気はないが、本当に辛くなった時に甘えられる。

 だからこそ限界まで頑張って、愛される漢であり続けるのだ。


「今日から俺は聖教皇を名乗る。

 そして教団としての仕事を重視する。

 リークン王国の国王としては、教団の申請を全て許可する」


「「「「「はい」」」」」


 俺の宣言を側近達が認めてくれる。

 まあ、今回に限っては認めなくても断行するけどね。


「修道士や修道女に就けた障害者達にはやりがいを与えたい。

 神に仕えるだけでは本当のやりがいは得られないと思う。

 それぞれの障害にあわせてやれることを教えていきたい」


「なにを教えるというの、アレックス」


 クラリスが話のテンポをよくしようと質問をしてくれる。

 本当によくできた女房だ。

 前世なら「よくできた女房」だなんて言ったら、女性運動家に叩かれるな。

 気を使って「よくできたパートナー」と表現しただろうな。

 最近よく前世の事を思い出してしまうが、何か悪い事が起こる前兆だろうか。

 妙に不安な予感がするな。


「サクラの分身スライムの手伝わせたら何でもできるが、それでは長続きしない。

 だからサクラの治癒魔術に頼らない、整体や整骨、鍼や灸を教えたい」


「えええと、よく分からのだけれど」


「俺しか分からない事だから、サクラに教えて分身に伝授させるよ」


 前世で俺が習い覚えた技だが、それに魔力やこの世界の薬草力を加えれば、天職スキルがなくても少しは治療の技を会得できるだろう。

 その技に教団というプラシーボ効果が加われば、寄付というかお布施というべきか、生活できるくらいの収入は確保できるだろう。


 その為にはサクラの分身を使って、この世界の薬草灸を人体のどのツボに据えれば、どのような影響が出るのか実験してもらおう。

 だがいきなり人体実験もできないから、支配下に置いているゴブリンやオークを使って動物実験しよう。


「それに加えて教団主催の音楽会を開催してお金を稼ぐんだ。

 唄でも楽器の演奏でもいい。

 楽器も障害にあわせて色々な種類を創り出す。

 それを演奏することで寄付という名の収入が得られるようにするんだ。

 音楽には人の心を癒したり豊かにする力があるからね。

 信徒達も幸せにできると思うよ」


 信徒に障害者を助ける事が神を敬う事と言う考えを広めるのは当然として、障害者の修道士や修道女からも信徒に与えるモノがあった方がいいからな。

 まあ、全部昔の日本人の知恵だけどね。

 それをこの世界にあわせて実用性を高める事だ。

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