第130話:慰め

 クラリスが俺を元気にしようと言葉を尽くしてくれている。

 時間をかけて俺の成果を調べて褒めてくれる。

 お陰で落ち込んでいた気持ちが少しよくなった。

 生き残るために必死で色々やっている時は、俺のやった事の所為で犠牲になる人々の事など考えもしなかった。


 だがこうして状況がよくなり圧倒的な力を得ると、俺の所為で死んでいった人達の事が夢に出てくるのだ。

 目が覚めている時には、無理矢理にでも用事を作って忙しくして、自己嫌悪に落ち込むことを防ぐことができる。

 自分の罪を直視しないですむ。

 だが寝てしまっている時には、逃れようのない悪夢をみてしまう。


「慰めてくれてありがとう、クラリス。

 お陰で少し楽になったよ」


 確かに少し心が軽くなった。

 助けられた人達、これから助ける人達の事を考えれば、少しは気分が晴れる。

 だがそれも起きている時だけの事だ。

 寝てしまったらどうにもならない。

 悪夢からは逃れられないのだ。


 悪夢が怖くて限界まで働いて、気を失うように寝ることができる。

 だがそれも悪夢で跳び起きるまでの事だ。

 このままでは精神的におかしくなってしまうかもしれない。

 前世の俺ならある程度まで落ち込んだら居直れた。

 だが今生も同じように居直れるとは限らない。

 だって今回の落ち込みの原因は、間接的とはいえ大量殺人なのだから。


「アレックス、少し寂しいわ。

 抱きしめてくれるかしら」


 俺がまた落ち込んできたのを悟ったのだろう。

 クラリスが俺を慰めようと露骨に誘ってくれる。

 自分が情けなくて、クラリスに申し訳なくて、泣きそうだ。

 前世の父親は長年躁鬱病で苦しんでいた。

 今生では全く血が繋がっていないはずなのだが、同じようになるのだろうか。


「アレックス、以前私に教えてくれたわね。

 将来ブロアーが何かに怖がるようになったら抱きしめてやれと。

 心臓を音を聞かせてあげたら安心するからと。

 私のお腹の中でずっと聞いていた心臓の事が一番安らげるからと。

 そう私に教えてくれたわね、アレックス。

 私はアレックスのお母さんではないけれど、抱きしめてあげる。

 この胸に抱きしめて安心させてあげる。

 さあ、いらっしゃい、アレックス」


 俺が弱さを見せてもいい相手。

 眼の前でワンワン泣いても許してくれる女性。

 それはクラリスだけだ。

 愛して抱きしめたい相手を妻に迎える人生も幸せだろう。

 だがそれ以上に幸せなのは、愛してくれる相手を妻に迎える事だ。


 理想は愛し愛される相手と結婚する事だろう。

 それこそが運命の相手なのだろう。

 だがそんな女性に出会える人間はごくわずかだろう。

 しかし俺はそんな相手に出会うことができた。

 クラリスこそ俺の運命の女性なのだろう。

 だが、クラリスにとってはどうなのだろうか。

 俺はクラリスの運命の男なのだろうか。

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