第128話:それぞれの想い

「アレックス、各国に全権大使を送りたいの。

 そうすれば障害者を助けてあげられると思うの。

 いえ、そうしなければ障害者やその家族は必ず殺されてしまいます。

 そんな事をさせる訳にはいきませよね、アレックス」


 クラリスが障害者を助ける事にもの凄く積極的になった。

 いや、クラリスや周りにいる側近達の本心が違う事は知っている。

 全員が俺の名を高めようと考えてくれている。

 俺の大陸各国への影響力を強めようと考えてくれているのだ。

 各国に全権大使を置くという事はそう言う事だ。


「確かに大陸各国にヒュージ級スライムを全権大使として送り込めば、喉元に刃を突きつけたも同然だろう。

 そうなればどの国も逆らえなくなるだろう。

 だがそれでは大陸各国から恨まれてしまう。

 それがブロアーの将来に悪い影響を与えるかもしれない。

 それが何よりも心配だ」


 俺自身が恨まれる事など全く恐れはしない。

 憶病なくらい慎重な性格ではあるが、サクラは全面的に信じられる。

 龍あたりが現れない限り、サクラが負ける心配はない。

 最悪の状況になったとしても、サクラなら何があっても俺達家族を護って地下深くに逃げてくれるだろう。 

 用意してある龍が入り込めないような細長い地下迷宮に逃げ込んでくれる。

 その為の準備は大ダンジョンと王都と教都で進めている。


「大丈夫ですよ、アレックス。

 もうすでに十分恐れ憎まれていますよ。

 中には恨んでいいる者もいるでしょう。

 ですが同時に感謝し恩に感じている者も沢山います。

 敵を恐れるよりも味方の力を増す事に力を注ぎましょう。

 障害者とその家族を救う事で、以前の教団を超える味方と力が手に入ります。

 アレックスならこれくらいの事は分かっているのでしょう」


 確かにクラリスの言う通りだ。

 俺にだってそれくらいの事は分かってる。

 分かってはいるが、つい慎重になってしまうのだ。

 サクラを全面的に信じているというのに、守り重視で攻めに出られない。

 家庭が安定した事で今までのような積極性を失ってしまった。

 攻撃されたら反撃するが、こちらから動く気を失っているのだ。


「でしたらクラリス様と私に任せていただけませんか、アレックス国王陛下。

 クラリス様も私も、アレックス国王陛下のためにならない事は致しません。

 御家族の方々を必ず御守りすると誓います。

 ですから全てお任せ願いたいのです」


 不意にサクラが会話に加わってきた。

 何か思う所があるのか、普段と違ってとても積極的だ。

 まさかとは思うが、世界制覇など考えていないだろうな。

 俺のために世界制覇を考えているのならやめてくれ。

 俺はそんな重みなんて背負いたくないのだ。

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