第122話:捕らぬ狸の皮算用

「捕らぬ狸の皮算用」になってしまった。

 全人口500万人全員がスライム捕獲をしようと思うわけではない。

 年齢的にも能力的にもやりたくてもできない人がいる。

 そもそも既にサクラが集められるだけのスライムを集めている。

 そうそう野生のスライムなどいないのだ。


 だがそれでも見落としというモノはある。

 サクラの分身にはそれぞれ重要な役目があって、それが最優先だ。

 庶民の家の裏や物陰に隠れているスライムまではわざわざ探さない。

 だからそれなりの量のスライムは捕獲されてきた。

 日数は一月ほどかかったが、キング級1頭分のスライムが集まった。

 最初からキング級50頭分というのが無理無体な計算だったのだ。


「アレックス、徐々に隣国から運ばれてくるスライムが増えていませんか。

 これは現金で代価を支払うようにしたからですか」


 クラリスが確認の質問をしてきたがその通りだ。

 国内ならば食糧との交換が一番喜ばれる。

 特に美味しい肉との交換が喜ばれる。

 だが隣国が相手だとそうはいかない。

 肉だとどうしても傷んでしまう。

 干肉にすると味が劣るし、干肉にしようと賞味期限は短い。


 だからといって戦略物資になる薬や毒、魔獣素材を輸出するわけにはいかない。

 影響の少ないモノを輸出するにしても価格暴落がするほどは輸出できない。

 だから今まで得た金銀財宝を使って購入することにした。

 近隣諸国は全てスーニー王国対して大幅な貿易赤字だ。

 今まで流失していた金銀財宝を少しでも取り戻したいのが当然の考えだ。

 近隣諸国は国を挙げてスライムを捕獲して輸出しようとしたのだ。


 彼らだって馬鹿ではない。

 王家が優秀だとは言い切れないが、少なくとも今現在権力を握っている者は、武力か知力に優れているのだ。

 だから彼らだって十分理解しているのだ。

 スライムを輸出する事がサクラを強くして、更なる戦力差を生むことを。


 彼らはスッパリと抵抗するのを諦めたのだろう。

 もうこの時点で挽回のしようがない戦力差が生まれているのだと。

 国内の全戦力を投入しても、キング級スライムのサクラには勝てない。

 サクラに加えてオーク軍団とゴブリン軍団もいる。

 ダンダス王国があまりにも簡単に滅んでいる。

 一方ホーブル王国は街道を割譲させられてはいるが残っている。


 敵対するよりは友好的に交易した方がいい。

 俺が望むスライムを集めて歓心を買う方が生き残れる可能性が高い。

 そうでなくても強国の敵意を買わない事は常識だ。

 それは俺やサクラに限った事ではなく、歴史的な常識だ。

 だがそれでも想像以上に多くのスライムが近隣諸国から集まった。


「増えたスライムは教都に送るの。

 それとも大魔境のもっと奥を探索するの」

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