第119話:誕生
「オンギャア、オンギャア、オンギャア」
元気のいい産声が部屋いっぱいに響き渡る。
「元気な男の子でございます、アレックス国王陛下」
誰よりも先にサクラが祝いの言葉をかけてくれる。
「ありがとう、サクラ。
よくやったな、クラリス。
これで我が国は安泰だ、大手柄だぞクラリス」
「はい、アレックス、私、頑張りました」
クラリスの出産では、俺とサクラが付きっきりで状態を確かめ、必要な時は痛み止めの魔術を使っていたとはいえ、出産が命懸けな事は王族も庶民も同じ事だ。
俺が死ぬ少し前の前世では、立会い出産が増えていた。
だが俺自身が受けた躾では、男は厨房に立たないという感じだったし、出産に立ち会う事もあり得なかった。
だがこの世界は違うのだ。
少なくとも王侯貴族の感覚は前世の俺とはかけ離れている。
そもそも愛を交わす時も両家の見届け人がいるのだ。
見届け人が気になって、何度恥をかきそうになった事か。
本当に世界や立場が違うと常識が大きく違ってくる。
だから今回の出産立会いも覚悟を決めてやった。
ただ絶対に誕生の瞬間が視界に入らないようにクラリスの頭の横にいた。
クラリスの手を握り汗を拭き言葉をかけた。
間違ってもその瞬間を見て不能になってはいけないのだ。
それでなくても見届け人の影響で萎える事が多いのだ。
毎回毎回魔術に頼っていては、何時かクラリスに気付かれてしまう。
そんな事に成ったらクラリスの心が傷ついてしまうかもしれないのだ。
理由を話しても信じてもらえない可能性が高い。
どこの誰が、俺に前世の記憶があると信じるだろう。
いや、信じた方が最悪の状況になるかもしれない。
俺が今まで成し遂げてきたことが、全て前世の知識によると分かってしまう。
そんな事に成ったら百年の愛情も覚めてしまうかもしれない。
クラリスに限ってそんな事はないと信じたいが、怖くて仕方がない。
考えるだけで冷たい汗が流れて震えが止まらなくなる。
この事だけは墓場まで持っていかなければいけない秘密だ。
「アレックス国王陛下、ブロアー殿下が初乳を飲まれますぞ。
アレックス国王陛下があれほど拘られた初乳でございます。
ちゃんと見てクラリス王太女殿下を褒めて差し上げなければ、スーニー王家の家臣を説得されたクラリス王太女殿下がお可哀想です」
確かにその通りだ。
この世界ではどの王家も乳母をつける。
その為実母の初乳を飲めないのが普通になってる。
細かな事までは分からないが、初乳が赤子の免疫にとても大切だという事は聞いた事があるので、これだけは絶対に譲れなかったのだ。
「ありがとう、クラリス。
これでブロアーは元気な子に育つよ」
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