第118話:目から鱗

 俺は何も分かっていなかったようだ。

 人間は損得だけで生きているわけではないのだ。

 確かに生活は何よりも大切だが、それ以外のモノも欲しい。

 人とのつながり、愛情や絆が欲しいのだ。

 どうやら俺はその事を忘れてしまっていたようだ。


「よく言ってくれた、アルペーシュ。

 余の考えが甘かったようだ。

 確かに従魔とのつながりは何物にも代えがたいものがある。

 その事は余も毎日感じていたのに、軽く考えてしまった。

 分かった、野生のスライムを従魔にしたなら、自由にしてくれていい。

 ただ今までのように何でもできるスライムでないぞ。

 余のスライムとは違い、以前お前達が従魔としていたスライムだ。

 野生状態のスライムにできる事はとても少ない。

 余のスライムと合体統合させようとしても拒否されることになる。

 それでもよいのだな」


「結構でございます。

 固い絆でつながったスライムがいてくれる、それだけで十分でございます。

 生活の方は国王陛下がお貸しくださるスライムで十分豊かに暮らせます。

 なんの不平不満もございません」


「他の者達もそれでいいのだな」


「「「「「はい」」」」」

「「「「「ありがとうございます」」」」」


 よかった、アルペーシュのお陰で大きな失敗をしないで済んだ。

 彼がいなければ人の心を踏み躙る政策になっていた。

 時に非情に徹する事も、国を安寧に治めるには必要な事だ。

 だがそ政策に温かな血を通わせるには人情の機微を忘れてはいけない。

 俺は徐々にそういう機微を忘れてしまっているのかもしれない。


「アルページュ、これからもスライム従魔士の気持ちを教えてくれ。

 余も国を背負う重圧で細かい配慮ができなくなることがある。

 その事を諫言してくれる存在が必要だ。

 本来なら高位高官に任命すべきなのだろうが、そんな事をすればアルページュまでスライム従魔士の心を失ってしまうかもしれない。

 だからこれまで通りに地位にいてもらう。

 すまんな」


「とんでもない事でございます。

 以前の生活を考えれば、今でも夢のように豊かに暮らせております。

 これ以上望むのは欲張り過ぎだと重々承知しております。

 我らスライム従魔士は、これからも陛下の手足として働かせていただきます」


 よかった、本当によかった。

 俺と同じ天職のスライム従魔士が心から仕えてくれている。

 これほど安心できる事はない。

 彼らがサクラの分身をと一緒にいてくれたら、敵を誘い出すことができる。

 大物から小物まで、サクラスライムを奪おうとする者が集まってくる。

 だが一旦俺の従魔になったスライムを奪えると思うなよ、眼にもの見せてくれる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る