第117話:強権発動・アルペーシュ視点

 分かっている、仕方のないことだ。

 分かってはいるのだ、だが、不平不満が心に生まれてしまう。

 全てアレックス国王陛下に頂いた生活なのに。

 返せと言われると反感を持ってしまう。

 我ながら卑しい性根だと思う。


「一旦スライムは全部返してもらうが、余の従魔スライムを貸し与える。

 そうすれば敵に奪われる事なく最後まで戦ってくれる。

 狩りに従事するクラン員や、国防を担う軍人には最低でもビック級を貸し与える。

 ビック級のスライムを従魔にできていた者には、元のレベルの倍の能力を持つスライムを貸し与える。

 安全な都市や街、村で治療や民情把握に当たる者には、元々の能力に応じたスライムを貸し与える。

 もう危険な事には従事したくないという者には、街道の砦街で事務に従事してもらうから、今後の生活には何の心配もない」


 ビックリするほどの保証です。

 冒険者を続ける事も治療家を続ける事もできます。

 新王国の軍人という新たな道を選ぶ事もできるのです。

 安全で収入の安定した街道の砦町で官吏になることすら可能です。


 ですが、これほどの厚い保証をしてもらえても、寂しさ悔しさが心に残ります。

 この気持ちは、従魔士の天職を得ながら従魔士として生きていくことができなかった、俺達スライム従魔士にしか分からない事でしょう。

 何の困難もなくスライムを駆使されて、今の地位を確立されたアレックス国王陛下には、絶対に理解できない落ちこぼれの気持ちです。


 いや、駄目だ駄目だ駄目だ。

 大恩あるアレックス陛下に対してこのような事を思うのは恩知らずだ。

 俺達のために今も色々考えてくださっているアレックス国王陛下なのだ。

 分からないのだと思って恨むのではなく、命懸けで諫言すべきなのだ。

 いや、アレックス国王陛下が諫言に罰を与えるはずがない。


「アレックス国王陛下、どうしても申し上げたい事がございます」


「なんだ、何か不審不安な事があるのなら、何でも言ってくれ」


「これほどの手厚い保証をしてくださる国王陛下に対して、更なる要求は不遜の極みだと分かっておりますが、心の問題だけはどうしようもないのでございます。

 やっとスライムを従魔にして心のつながりを持てるようになったのです。

 それを失う事は金銭や権利で補えるモノではありません。

 伏してお願い申し上げます。

 独力で野生のスライムを捕獲した場合は、そのスライムを従魔にさせていただきたいのです。

 お貸しいただける国王陛下のスライムは、従魔ではないので心の繋がりが得られないのです。

 どうかお願い申し上げます。

 この通りでございます」


 俺は必死で平身低頭した。

 後ろに控えていた全スライム従魔士が、俺と同じように平身低頭している気配がヒシヒシと感じられる。

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