第116話:献策諫言

 クラリスとサクラが俺の事を考えて献策してくれた。

 いや、はっきりと言う、諫言してくれたのだ。

 俺にはとても怠惰で怠け者な所がある。

 だから臨機応変に最良の策を考えるよりも、事前に決めてあった策、ルール通りに機械的に物事を進めたくなってしまう。


 だから今回も事前に決めた約束事は守る心算だった。

 いや、そもそもルールを変える事など考えもしていなかった。

 だがクラリスとサクラに諫言されて目が覚めた。

 このままスライム従魔士との約束を守ることは、とても危険だと分かった。

 このままではまたスライムを教団に奪われてしまう。


 いや、教団だけが相手ではなくなるだろう。

 あのような方法でサクラの能力を持ったスライムを奪えると知れ渡ったのだ。

 上は大陸各国から下は小悪党まで、多くの者がスライムを奪おうとする。

 ちゃんと手を打たないのは権力者として許されない事だ。

 朝令暮改と言われようとも、スライム従魔士に貸し与えたスライムを回収しなければいけない、これは絶対に必要な措置だ。


「ありがとう、クラリス、サクラ、曇っていた目が覚めたよ。

 直ぐにスライム従魔士に分け与えたスライムを回収する。

 最短時間で回収できるように動いてくれ。

 ただくれぐれもクラリスとお腹の子に危険が及ばないようにな」


「承りました、アレックス陛下」


 俺は心からクラリスに感謝した。

 同時に産み月になっているクラリスに、移動の負担がかからないようにした。

 サクラは細心の注意を払って高速移動してくれた。

 実際に移動している速度を知らないサクラの中にいる者達は、サクラがその場にとどまっていると勘違いするくらいだ。


 普段移動する際には展望席を設けて景色を楽しむ。

 だが今回は移動速度が分からないように、一切窓を作らなかった。

 ただ完全に密閉された空間だと圧迫された気になってしまう。

 だから小動物を放し飼いにしたふれあいの場を作った。

 水槽を設けて色とりどりの川魚も泳がせてみた。

 絵画や陶芸を並べた芸術の間も設けた。


 そのお陰でサクラの中にいる人間に悪い影響は出なかった。

 スライム従魔士からスライムを回収するたびに休憩したのもよかった。

 その度に短時間は外に出れたし、展望室や大窓も作った。

 全スライム従魔士からスライムを回収するので、休息と休息の間、移動時間がとてもが短かったのがよかったのだろう。


 問題があるとしたら、スライムを回収されるスライム従魔士の待遇だった。

 彼らからスライムを奪うのは元の劣悪な生活に戻れと言っているようなものだ。

 だから彼らには2つの道が選べるようにした。

 俺の従魔に戻ったスライムを借りて、従魔ではないスライムのパートナーとなり、今まで通りスライム従魔士として生きる道が1つ。

 もう1つの道は、街道砦町の世話役として十分な生活費を支給されて生きるかだ。

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