第5章
第102話:威圧
俺はクラリスに負担がかからない程度に先を急いだ。
ダンダス王国との約束の日までに国境に到着するためだ。
ダンダス王国内では時間をかける心算だが、ホーブル王国からは期日通りに出て行くと作戦会議で決まっていたから。
「り、リ、リークン公爵殿、く、ク、クラリス王太女殿下はどうなされたのですか」
キングスライムだけでも恐ろしいのに、ファイターキングゴブリンとファイターキングオークまでが会談場を囲んでいるのだ。
ダンダス王国側の交渉団の九割が、腰を抜かしてその場にしゃがみ込んでいるのは仕方がない事だろう。
そんな中で、全身がガタガタと震え言葉に詰まりながらも話ができるこの男は、胆力があると言えるだろうな。
「それは、アーチー国王陛下どころか、王族が一人も出席しないこの会談に、我が主君クラリス王太女殿下だけ出席しろと言っているのか。
それは我が国を侮辱したも同然だ、十分宣戦布告の理由になる。
戦争がしたいのなら、そのような無礼非礼を行わず、正々堂々と宣戦布告してはどうかな、宰相殿」
この宰相に戦争を仕掛ける気がない事など分かっている。
単に恐怖でパニック状態になって、後先を考える事もなく、頭に浮かんだことをそのまま口にしただけだ。
だが国家間の正式な交渉の場では、失言一つが命取りなる。
今回宰相が口にしたひと言は取り返しのつかない致命的な言葉だ。
「ち、ち、ちが、ちがい、違います、リークン公爵殿。
わ、わ、わた、私は、私はクラリス王太女殿下のお身体が心配で……」
「黙れ、この無礼者が。
今さらそのような言い訳が通じるとでも思っているのか!
約束の日に国境に来てみれば、国王はおろか王族の一人も来ていない。
随行の貴族も宰相一人で大臣の一人も来ていない。
来ているのは騎士に偽装した冒険者だけではないか。
このような無礼な場にクラリス王太女殿下を立たせるはずがなかろう。
それでも、何か事情があるのかと言い訳を聞くために来てみれば、そちらの非礼無礼を詫びることなくクラリス王太女殿下の不在を咎める発言、もう許さん。
これからは一切の弁明を聞く耳をもたん、貴様を捕虜にして王都に攻め込むのみ」
「お待ちください、どうか、どうか、どうかお待ちください、リークン公爵殿。
これには王家の名誉にかかわるどうしようもない事情がございまして」
そんな理由は聞かなくても分かっている。
ヒュージスライムに恐怖して粗相したアーチー国王はもちろん、全王族と大臣や有力貴族が、いや、本来名誉のために戦う騎士までは、恐怖で逃げたのだ。
恐ろしさのあまり、仮病を使って会談への出席を拒否したのだ。
そんな事は分かっているが、だからといってこちらが無礼非礼を我慢しなければいけない理由にはならない。
「サクラ、こいつら全員取り込んでくれ」
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