第103話:占領併合

 別に最初からダンダス王国を占領しようと思っていたわけではない。

 ホーブル王国でも最初は街道を割譲させようとは思っていなかった。

 邪魔されることなく教都に行きたかっただけなのだ。

 だが運命と言うべきか、それとも単なる偶然なのか、ホーブル王国では驚くほど幅広く長大な街道を領地として手に入れることができた。


 そしてここダンダス王国では、王家を完全屈服させてしまった。

 どうもダンダス王家は臆病な性質のようで、ヒュージスライム程度でも恐怖のあまり失禁脱糞したうえに失神までしてしまうのだ。

 アーチー国王だけでなく、ネヴィア第一王女もセオ王太子もヘンリー第二王子も、サクラとファイターキングゴブリンとファイターキングオークに迫られて、泡を吹いて卒倒してしまった。


 いや、直系王家だけでなく、傍系王族も有力貴族も、本来戦場で戦うはずの騎士までもが、恐怖のあまり卒倒してしまうのだ。

 あまりの情けなさに交渉する気も失せてしまった。

 本当は国の運命、国民の生命財産を預かる責任など背負いたくはないのだ。

 だが、こんな連中に任せておくわけにもいかない。

 見て見ぬふりは俺の不完全な良心が許してくれなかった。


「ふう、困ったものだ、本当はこんな事などやりたくないのだがな。

 お前達のような臆病者に国民の運命を預けるわけにはいかぬ。

 ノブレス・オブリージュに則り貴様達を国外追放して私達がこの国を治める。

 食糧や国の富を持ち出す事は絶対に許さない。

 だが王家の私財や重代の宝物を持ち出す事は許す。

 貴族士族も同じように、領地の食糧と公財を持ち出す事は許さない。

 持ち出しを許すのは私財や重代の宝物のみだ」


 集まった誰も何の返事もしない。

 恐怖で半ば意識を手放しているから何を言われているのか分かっていない。

 まあ、分かっていようが分かっていまいがやる事は同じだ。

 素直に従う気が有っても無くても、力づくでダンダス王国から追放する。

 これを理由に教団が介入してきたら戦うのみだ。


「アレックス様、では早々にアレックス様の戴冠式を行いましょう」


 はっあぁあ、クラリスは何を言っているのだ。

 ダンダス王国はスーニー王国の属国にするか併合するかだ。

 俺はあくまでスーニー王国の家臣として交渉しただけだ。

 あくまでも新たに国を治めるのはクラリスだ。

 クラリスを新女王に戴冠せせるのが一番だ。


「まさかとは思いますが、アレックス様は大陸中の王侯貴族と教団の敵意、王党派の恨みと敵意を妊娠中の私に受けさせる気ですか。

 直接的な攻撃はサクラが完璧に防いでくれますが、悪意や恨みや怨念は防いでくれるかどうか未知数なのですよ。

 ここはアレックス様が全て引き受けるのが私への愛情ではありませんか」


 もしかして、俺はクラリスに嵌められたのか。

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