第101話:心配症から決断

 俺は他の家臣からも話を聞いて、できる限り広く策を求めた。

 とは言ってもサクラの中にいる人間だけだけどね。

 ほとんどの者が王都には戻らない方がいいと言う。

 サクラの中が一番快適で安全だというのと、王都の民が巻き込まれるような謀略が実行されたら、クラリスの心が痛むというのが理由だった。


 自分の視野が狭くなっていたのだと、嫌というほど自覚した。

 まあ、後から意見を出した人間は、フェリシティの話を聞いて納得して同調しているだけではあるのだが、俺が思いつかなかったのは間違いない。

 だから王都に戻らないのは確定なのだが、だからといって無暗に教都に攻め込むのもどうかと思うのだ。


「サクラ、何か考えはないかい」


 苦しい時のサクラ頼みではないが、サクラの意見を聞いてみたかった。

 サクラは信じられないくらい賢くなっているのだから、もっとサクラに話を聞いて教えを乞うべきなのだ。

 俺の方が主人だと言っても、強さも知恵もサクラの方がはるかに上なのだから。


「急ぐ必要はないと考えます、アレックス様」


「それは各国と約束した日時よりも遅れるべきだという事かい」


「はい、その通りでございます。

 教団の攻撃くらいなら、私が確実に撃退します。

 それ以前に、オーク軍団とコボルト軍団を前衛に出しておけば、教団もダンダス王国も手の打ちようがないでしょう。

 いえ、それ以前に、既にダンダス王国のアーチー国王は、会談に行ったヒュージスライムに恐怖して謁見の間で粗相をしてしまい、国中の笑い者になっております。

 既に逆らう気概などなく、楽々街道割譲の交渉が可能です」


 俺がクラリスの妊娠問題で舞い上がっている間に、クラリスがダンダス王国に送った使者がいい仕事をしてくれたようだ。

 アーチー国王の心を砕いたのはヒュージスライムだが、交渉を纏めてくれたのはクラリスの側近だ。

 ここは十分な褒美と称賛の言葉を与えなければいけないな。


「クラリスの使者がいい仕事をしてくれたとサクラが言っている。

 この国にはヒュージスライムとビックスライムにベビースライムをつけて、街道整備と警備を任せよう。

 俺達はダンダス王国に行って、交渉で得た街道の開発をする。

 もし教団の襲撃を受けるのなら、被害が周囲に及ぶかもしれないから、これまで散々陰口を叩いていたダンダス王国内の方がいいだろう」


「そうですわね、アレックス様。

 長年友誼のあるホーブル王国に火の粉が落ちるのは本意ではありません。

 できる事ならダンダス王国で教団の攻撃を待ち構えたいです」


 さあ、クラリスが決断した以上、俺それを全力で成し遂げるだけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る