第75話:新街道

 俺は事前に通告してあったことを改めて口にした。

 俺達がこの国の街道を使ってしまうと、多くの人が困ることになる。

 俺達が通行している間は、この国の人間が街道を使えなくなる。

 下手をしたら、街道を破壊してしまう可能性すらある。

 それは俺が王都からリークン公爵領に行った時と同じだ。

 既存の街道をサクラで移動する時は、細心の注意が必要になる。

 だからこそ、隣国の民に迷惑をかけない新街道をつくる事を提案したのだ。


 隣国がとても道づくりできないよう難所であろうと、サクラならつくれる。

 魔境は道をつくって維持できないので、今は開発できていない未開の大森林や断崖絶壁の山々に、馬車が行き交う事ができるような隣国で1番の街道をつくる。

 流石に道づくりの間はゴブリンを先鋒にできないので、後衛として隣国の裏切りに備えさせていた。

 万が一にも隣国が裏切る事はないと思うが、世の中に絶対という事はない。


「アレックス様、お茶になさいませんか」


 クラリスが優しく声をかけてくれるが、内心はチョッと怒っているようだ。

 俺が道づくりに集中し過ぎて、話しかけなかったのがいけなかったようだ。

 全く意味のない他愛のない話題であろうと、話すという事が女性には大切なようで、とにかく何か話していないとクラリスの機嫌が悪くなる。

 まあ、俺の方に話す事がなければ、クラリスの話を聞くだけでもいい。

 クラリスの可憐な容姿を見詰めながら、美声で紡がれる言葉を聞くだけでも幸せな気分になれるのだから。


「そうだね、侍女に熱いお茶を入れてもらって、ナッツチーズケーキを一緒に食べたいな、なければ炒ったナッツだけでもいいよ」


「いえ、大丈夫です、今朝焼いたばかりのナッツチーズケーキがありますわ。

 お茶はこの国の最高級品を国王陛下から頂きましたから、それを用意させますわ」


「それはとても楽しみだね、用意ができるまで一緒に景色を見ようよ」


「はい、アレックス様」


 お茶とケーキの準備は直ぐにできるのだが、それまでただ待つだけというのも面白くないから、クラリスと並んで景色をみた。

 ただ並ぶだけではなく、仲良く手を繋いでみる。

 自分が他の事に集中し過ぎてクラリスの機嫌を悪くさせてしまったのだから、機嫌を直してもらうよう、努力する義務と責任がある。

 なんて言ったら大袈裟だね、俺もクラリスと寄り添っていたいだけだ。


(アレックス様、少し展望台の位置を高くしますね。

 必要なら御二人だけ天に届くほど高くする事もできますが、いかがなされますか)


 サクラが魅力的な提案をしてくれるが、見届け人なしではいけないのだ。

 羞恥心が捨てきれない俺にはありがたい提案だが、王配として守らなければいけない事があるのだ。


(気を使ってくれてありがとう、だが大丈夫だ、全体を少し高くしてくればいい)

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