第4章

第74話:侵攻か新婚旅行か

「アレックス様、これは新婚旅行となるのでしょうか」


 サクラが作ってくれた展望台で仲良く並んで座っているクラリスが、とてもうれしそうに微笑みながら話しかけてくる。

 教会を懲らしめるための遠征も、クラリスにかかったら新婚旅行扱いだ。

 これを結婚式を挙げてから最初の旅行と言っていいのだろうか。

 王都を離れるという意味だけなら、もう大ダンジョンに一緒に行っているし、10日も現地で寝泊まりしているのだ。

 だが、そんな事を口にして楽しそうなクラリスの心を傷つけたりはしない。


「そうだね、色んな国の景色を楽しみながら、現地の珍しいモノを食べたいね」


「はい、アレックス様、今からとても楽しみです」


 クラリスが俺の肩に頭をもたせかけてくる。

 その重さを幸せの重みだと感じられるのは、俺がクラリスを愛している証拠だ。

 重いぞ馬鹿野郎と思ってしまったり、他にしたい事があるのに邪魔だと思ってしまうようになったら、夫婦の関係も終わりだろう。

 永遠にこの気持ちのままでいられたらいいのだが、どうなるのだろうな。


(アレックス様、国境に隣国の軍が集結しております、いかがいたしますか)


 サクラが仲良くしているクラリスと俺に気を使って、人間の言葉で声をかけるのではなく、心に気持ちを伝えてきた。

 隣国には事前に通告はしておいたが、ゴブリン軍団を先鋒に進んでくる俺達を、隣国の首脳部は心底警戒しているのだろう。

 もし俺が同じ立場だったら、平身低頭で迎えるか死を覚悟して戦支度していた。


 隣国の王族も誇りは失いたくないだろうが、負ける戦をするほど馬鹿ではない。

 だから国王をはじめてとした王族が国境線に居並び、同じ王家として堂々と歓待して、力負けして国内を押し通られるのではないと、民に伝えようとしていた。

 俺は人の誇りを踏み躙って喜ぶような悪趣味な人間ではない。

 無用な争いを始めて殺人を愉しむような屑でもない。

 だから素直に隣国の歓待を受けて友好な関係をアピールした。


「リークン公爵、これが我が国の地図です。

 地図に描かれているこの線に従って通過してもらいたのです」


 本来なら軍事機密であるはずの地図を、この国の宰相が渡してくれた。

 国同士が信頼し合っていると民にアピールするためだ。

 要求されてから仕方なく差し出すよりも、進んで出した方がダメージが少ない。

 それに、地図を提供する代わりに通過ルートを指定できれば、通過されて困る軍事拠点を避けるようなルートを提案できる利点もある。

 通過しないところは、本当に大事な所は地図に書かないでおく事もできる。


「ありがとうございます、できるだけ損害を出さないようにして通過させていただきますが、もし望まれるのでしたら道を作らせていただきますが、どうなされますか」

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