第37話:痴話喧嘩

「何故ですか、何故一緒に来てくださらないのですか。

 この子がいれば、もう何も恐れる必要などないではありませんか。

 この子を使って、カイトとジェームスを殺すなり幽閉するなりして、アレックス様がリークン公爵家の当主になられれば、全て丸く収まるではありませんか。

 アレックス様は私と一緒にいたくないのですか。

 もう私の事など好きではなくなってしまわれたのですか」


 クラリス王太女殿下が俺の事を激しく責める。

 確かにクラリス王太女殿下の言う通りで、俺がリークン公爵家の当主になったら、王家も安泰だし国の統治も揺るぎないモノになるだろう。

 だが、俺にはどうしても確かめたい事があるのだ。

 それに、ここで少し待つことで、今王都に行く以上に王家と国を盤石の体制にすることができるのだ。


「そんな事はないよ、今でもクラリス王太女殿下の事が大好きだよ。

 ほんの少しの間も、クラリス王太女殿下の側から離れたくないと思っているよ。

 死が二人を分かつまで、側を離れないと誓うよ。

 でもね、私達二人の将来のためには、このゴブリン大集落を管理しなきゃいけないし、安心できる強いロードスライムを側に置かなきゃいけないんだよ。

 もう少しこの子を成長させて、二カ所に分かれても大丈夫にしたいんだよ」


「私を嫌いになっていないのなら、何故以前のようにクラリスと呼び捨てにしてくださらないのですか。

 王太女殿下をつけて呼ぶなんて、他人行儀ではありませんか」


「いや、流石にお互いの家臣がいる前で、王太女殿下を呼び捨てにはできないよ」


「嫌です、嫌でございます、呼び捨てにしてくださいませ」


 クラリス王太女殿下がわざと甘えているのは分かっている。

 俺とクラリス王太女殿下が分かち難い存在だと、周りに印象付けたいのだろう。

 だがあまりに露骨にやると、クラリス王太女殿下の評判が悪くなってしまう。

 貞操を疑われるような事があれば、大陸の王族間での評価が落ちてしまう。

 できればそんな事は避けたいのだが、俺も親密にしたい欲望くらいあるから、自分を律するのが大変だ。


「クラリス王太女殿下、王侯貴族なら結婚まで守らなければいけない約束事がございますから、これまで通り君臣の垣根は守りましょう。

 その代わりと言ってはなんですが、クラリス王太女殿下の守護役として、ロードスライムを1匹派遣したします。

 その子を私だと思って可愛がってやってください、お願い申し上げます」


「嫌です、絶対に嫌でです、そんな事をしてしまったら、ロードスライムの成長が遅くなってしまって、アレックス様が王都に来るのが遅れてしまうではありませんか。

 アレックス様が王都に来てくださらないのなら、私がここに残ります」

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