第36話:驚嘆・クラリス王太女視点

 道案内と露払いをやらせていた敗残の貴族連合軍の幹部達が、あまりの現実に声をあげる事もできずに棒立ちになっています。

 普通なら歓声や嘆息がでるところですが、それすらありません。

 でもその気持ちは私にもよく分かります。

 私自身が声をあげる事もできず、軍用馬車の上で固まってしまっています。

 総大将として指揮台にいるのですが、驚嘆して何の指示もだせません。


(クラリス王太女殿下、アレックス様の手柄を誉めてください)


 横にいてくれるフェリシティが的確な助言をくれます。

 そうです、今こそアレックス様の偉業を伝える時です。


「皆よく聞け、愚かなリークン公爵が殺そうとした私の婚約者アレックス様は、史上初めてロードスライムを従魔化した偉大な方です。

 皆が恐ろしさのあまり戦う事のなく逃げ出したゴブリンの大軍を、たった1人で壊滅された天下無双の強さを誇る方です」


 多くの貴族連合軍幹部が、私の視線から逃れようと下を向きます。

 恥を知っている、まだ矯正が可能な者達です。

 しかし中には、明らかな敵意を視線に込めて睨んでくる連中がいます。

 特にジェームスは、年下のくせに粘着質な視線を送ってきます。

 ジェームスは手段を選ばずアレックス様を害そうとする事でしょう。

 アレックス様の名声に傷がつかないように、殺してしまいましょう。


(私にお任せください、クラリス王太女殿下)


 フェリシティが絶妙のタイミングで話しかけてきます。

 貴族連合軍幹部の態度を見て、殺すか味方にするか判断していたのでしょう。

 言葉1つで生死が分かれるのが貴族社会だというのに、愚かな連中です。


「「「「「うっわぁああああ」」」」」


 貴族連合軍の敗残者ばかりではなく、王国騎士団や傭兵団、モンスターになれているはずの冒険者ですら、恐怖の声をあげています。

 それくらい圧倒的な巨体と威圧感を持った存在が、幾匹も眼の前に現れました。

 そのうちの1匹がアレックス様のスライムでなければ、私も腰を抜かしていたでしょうが、一瞬固まるだけで済みました。


「素晴らしい事ですが、恐ろしくもあります。

 あのひときわ巨大なゴブリンがファイターキングゴブリンでしょう。

 少し小さなゴブリン6匹が、ロードなのでしょうが、7匹を楽々と相手するとは。

 それどころか、あれは7匹と戦う事で経験値を稼いでいるようです。

 キングゴブリンとロードゴブリンを経験値稼ぎのために養殖しているの?

 絶対に敵に回してはいけない相手です。

 もしアレックス様が王位に野望を抱かれたら……」


 フェリシティが必要もない心配をしています。

 アレックス様はとても心優しく責任感が強い方なのです。

 そして少々怠惰な所がある方でもあるのです。

 国王のような大きな責任がのしかかる役目を、自ら進んでやりたがりはしません。

 後でちゃんと説明しておかないと、無用な波風を立ててしまうかもしれませんね。

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