第31話:ファイターキングゴブリン

 俺が名前も知らない家臣の一族が、思わず声をあげている。

 その表情は恐怖で歪み、逃げ出そうと腰を浮かしている。

 俺が名前も覚えていない家臣一族の男だ。

 可哀想だが俺は前世から名前を覚えるのが苦手なのだ。

 特にどうでもいい相手の名前は直ぐに忘れてしまう。


「心配しなくてもいい、ロードに勝てるゴブリンなどいない」


 俺が少し強く言ったので、12人の側近の1人、槍術の名手トルージュが厳しい視線で一族の男を睨みつけた。

 その視線を受けて、弱気な態度を見せていた男が小さくなっている。

 トルージュが明らかに苛立っている。

 天職が槍士で、強さに誇りを持っているだけに、一族の弱さが許せないのだろう。

 それと、俺に臆病者の一族がいると思われるのも嫌なのかもしれない。


「まあ、安心してみていろ。

 勝てない可能性があれば、地下深くに逃げてくれるから、何も心配はないよ」


 ファイターキングゴブリンが想像以上に強くても、ロードが勝てない相手がいるとは思えない。

 逃げるような事にはならないと思うが、万が一の場合の策も考えている。

 俺は元々憶病で慎重な性格なのだ。

 前世では亡父に石橋をたたいて壊すくらい慎重だと揶揄された事もある。

 だから事前に狭くて深い、ファイターキングゴブリンが追撃できないトンネルを掘って、逃走路は確保しているのだ。


「キャアアアア」


 側近一族の女性が悲鳴をあげ、子供達の表情が恐怖で引きつっている。

 俺も内心の不安を表情に出さないようにするので精一杯だ。

 想像以上にファイターキングゴブリンが強い!

 ファイターキングゴブリンと4匹のファイターロードゴブリンは、信じられないくらい巨大で厚い岩を盾にして防御力を高めている。

 大魔境の巨大な魔樹を、棍棒のように武器として使おうとしていた。

 危険を冒す気はなかったので、ロードの身体の一分を圧縮強化して、地下を進ませて不意討ちに下から突き上げた。


 4匹のファイターロードゴブリンのうち1匹は不意討ちで刺し殺せた。

 他の3匹も、一撃で斃せなくても連撃を加えることで斃すことができた。

 だがファイターキングゴブリンには、最初の一撃を楽々と避けられ、2撃目は魔樹棍棒で弾き返されてしまった。

 3撃目も同じようにはじき返され、4撃目には盾を捨てた左手で捕まれてしまい、剛力と体裁きの勢いで、攻撃に使っていたロードの身体を捻じ切られてしまった。


 側近一族の女性が悲鳴をあげ、子供達の表情が恐怖で引きつってしまったのは、その光景が内部に映し出されてしまったからだ。

 俺は急いでロードが失った体が回復するように、無尽蔵の魔力を使って回復魔術をロードにかけた。

 同時にロードも3万近い合体統合体を利用して回復魔術を使う。

 同時に4匹のファイターロードゴブリンを斃した事で手に入れた、経験値分の体力まで満杯にした。

 

「ロード、斃したファイターロードゴブリンと失った体を取り込んで、ベビーとリトルを成長させるんだ。

 スライムに進化した仲間を合体統合して、少しでも力を増強させるんだ」

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