第26話:秘密・クラリス王太女視点

 アレックス様が無事に生きていてくれました!

 これほどの喜びは今まで生きて来て初めてです。

 アレックス様を信じてはいましたが、全ての不安を払拭する事などできません。

 起きている時は心を強く持つことができますが、寝ている時はどうしようもなく、悪夢にうなされてしまう事もあったのです。

 でもこれでようやく熟睡することができます。


「これがアレックス様から預かって来た手紙でございます」


 王都に戻った監軍がアレックス様からの手紙を手渡してくれます。

 開封して少々驚いてしまいました。

 幼い頃にアレックス様が教えてくれた2人だけの秘密文字で書かれていました。

 手紙の内容がとても大切な秘密なのだと理解できました。

 私は直ぐに人払いをして1人で読みました。


『こころからあいするくらりす。

 ぼくはもうすこしゆくえふめいのじょうたいになる。

 いまのじょうたいはこうきだから、くらりすのてきをあぶりだす。

 さいわいぼくにはろーどのすらいむがいる。

 このくにのさいきょうせんしでもいまのぼくにはかてない。

 だからあんしんしてほしい』


 アレックス様が教えてくれた言葉は、どこの国も言葉でもありませんでした。

 アレックス様と私以外誰も知らないので、安心して家臣に預けることができます。

 誰に奪われようと解読不可能の2人だけの言葉です。

 でも手紙の内容は少々不満です、やっとお会いできると思っていたのに……

 ですがアレックス様が私の事を想っていてくださるのは十分理解できました。

 確かに今の私の周りは、私を利用しようとする者ばかりです。

 哀しい事ですが、それを力で打ち払う事も不可能な状態です。


「クラリス王太女殿下、アレックス様から売却を依頼された毒物と薬物は、信じられないくらい純度が高く効果も桁外れのモノばかりでございます。

 これらのモノは、アレックス様の申される通り市場には出さず、王家が独占すべきでございます」


「しかしそれではアレックス様の軍資金が足らなくなるのではありませんか」


「それは大丈夫でございます、クラリス王太女殿下。

 市場に流しても大丈夫な一般的な純度と効果のモノは、別に大量に預かっておりますし、毛皮や皮紙、牙や爪といった素材も大量にございます。

 それらを販売するだけで、4個騎士団を1年間動員できるだけの軍資金が手に入りますので、なんの心配もございません」


 4個騎士団を1年間動員できる軍資金とは、信じられないくらい莫大な金額です。

 今のアレックス様には1人の騎士もいませんから、傭兵や冒険者を雇うことになるでしょうが、国中の傭兵を集めても軍資金に余裕があるかもしれません。

 アレックス様が従魔にされたロードスライムの桁外れの力が伺えます。

 それだけの力があるのなら、今直ぐリークン公爵家を継いで王配になって欲しいと思ってしまうのは、私の我儘なのでしょうか。

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