少し痛む

「で、あるからして反乱軍の捕虜───この時の詩が───」

「はあ」

相変わらず先生が授業内容を説明する言葉は私のため息とともに右から左へと私の耳を流れて行く。


どうしろというのよ。


本当にどうすればいいのか分からない。

永岡を彼女から奪う方法も、永岡を諦める方法も何も思いつかないしこんな簡単に諦める事ができるのならばそもそもこんなに悩んだりなんかしない。


「どうすれば良いのか全く解らないじゃない」

「ほう?俺の授業はそんなに解らないのか?矢野」


い、いつのまに私の背後にっ!?


「いえ、凄くわかりやすいです」


私の心境とは真逆の、悩みなど何も無い者たちの笑い声が教室を包み混んでいった。





「矢野!!」

「ん?」


授業も全て終わり帰路に着こうとしている時、誰かに呼ばれ振り向くとそこに永岡がいた。





「友達は?」

「バイト」

「そうか」

「……うん…………」

「まだ痛む?」

「す、少し……」


その痛みが夢では無かったという証拠であり、痛みが引いて行くにつれ夢にされていく様で一生痛みが引かないで欲しいなどと思っている事は内緒である。


「そ、そうか」


結局私は永岡と一緒に帰る事となったのだがお互いあの日の事を意識してなのか会話が全くと言って良いほど弾まない。

それでも私の心は嬉しさで溢れ、もしかしたらという打算を弾き出そうとしてくるのだから現金な女である。

それでも聞かなければならない、いや─私が聞きたい事がある。


「彼女と一緒に帰らなくて良いの?」


私なんかと一緒に帰って良いの?


両方聞きたいのだが片方は心の中で抑える。

もし良くないと言われた場合間違いなく立ち直れない。


実際私と一緒に帰っているというのに彼女と帰らなくて良いのかと聞く私の意地悪さと彼女がいると再度認識してしまう事により私の心にズキリとした痛みが走る。


「彼女なんかいたらお前と帰ろうと思わねーよ」









ああ──期待が大きく膨らんで弾けそうだ。









「あの人は永岡君の彼女じゃないの?」

「あいつはただの幼馴染だよ」

「そ、そうなんだ………ただの幼馴染なんだ」


なんだ。

今までの悩みは何だったのか?

ずっと彼女だと思っていた女性が彼女じゃないなんて。


いや待てよ、これって千載一遇のチャンスなんじゃ?

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