第5話 遺跡へ

 大烏とゴーレムから逃げてきた3階層。


 ユキと探索をする約束をしてから三日間。勝てない敵がいるとわかっていても懲りずにシロと、大木の異界へと通っていた。


 石のアーチを潜り抜けた先に広がる黄昏時にも似た風景の階層。


 入り口を南とするなら東側は白い遺跡がある場所で謎のゴーレムがいる所だ。


 入り口が南であると仮定すると北東と北西には大樹。北と西に広がるのは森と草原、そして丘。


 無数に点在している岩のような物体は、魔物だった。恐る恐る近寄ってみると3mか4mはあるだろうごつごつとした灰色の毛皮を持った猿だった。


 指の内側にはギザギザにとがった指紋が付いた大きな手で草原を刈り取って口に運んでいる。


 目があっても特に何をするでもなくゆっくりとただひたすらにもぐもぐと口を動かすだけの猿だった。


 ここまでが三日間の3階層の情報収集の結果だ。実に少ないがびくびくと探索していた結果がこれだ。


 その甲斐あってか三日間であの大ガラスやゴーレムと出くわすことはなかったのは幸運なことだった。


 そして三日間の探索を費やしても4階層へと降りる道のりが発見できずにいたのでヨゾラにもそのことをアプリで話したら────


ヨゾラ サユキ:東! 東へ行きましょう!!


シラヌイ ハルヒト:ですが、そこは謎のゴーレムっぽい何かがいて危険そうなんですよ


ヨゾラ サユキ:遺跡にゴーレム。浪漫の匂いがぷんぷんします! 


シラヌイ ハルヒト:浪漫の匂い……


ヨゾラ サユキ:浪漫の匂い……きっとシラヌイさんも味わえると思いますよ?(。-`ω-)


ヨゾラ サユキ:それに異界に遺跡って今までいくつも発見されているのですが、どれも今となっては人の手が加えられて研究やらなにやらで入れなかったりして外からしか見ることができなかったり見れないことが多いんです。


シラヌイ ハルヒト:へぇ、ってそうか。階層をまたぐときのあの不自然な階段も遺跡と言えば遺跡ですよね?


ヨゾラ サユキ:多分そうだと思うのですが……未だにあの階段については謎が多いというより何もわかってないのが現状みたいです。そこも楽しい話なのではありますが────


ヨゾラ サユキ:シラヌイさんが見かけたその遺跡……遺跡の守護者と考えられるゴーレムが未だ討伐も何もされてないでそこにいるということはですよ? きっと……未だ見ぬ何かがそこにあります! ならば行くべきなんです!! 絶対に!!


シラヌイ ハルヒト:お、おう


 なにやら遺跡好きであることが発覚した前日にアプリで闘志を燃やしていた彼女は今。


 第三階層に降り立った瞬間。アーチを食い入るように見ていた。


「石と石が人工的に繋ぎ合わさったかのような痕跡。ハルさん! この石のアーチ、人工物ですよ!」


「自然にできたと思ってましたけど確かに……」


「ですよね! きっと異界にいた誰かが何かの目的で作ったんだと思います! それにここ! なにか文字らしきものが彫ってあるじゃないですか! 読めないのが悔やまれますが短いのでもしかしたら人の名前かもしれませんね」


 遺跡を見た途端にヨゾラの台詞が圧倒的文字量になってしまっている。


 夢中になって眺めているユキを制して昨日言っていた東へと向かうべく小高い丘へと登り目的地を指さした。


「すごい……広いですね。あれがハルさんが言っていた遺跡ですか?」


「少し崩れがかった白い岩がいくつもある所がそれです」


「行きましょ!」


 この秒かからない反応と行動力は見習おうと思った。


 小高い丘を降りて東の遺跡へ向かうべく森を抜けた。するとシロが警戒を始める。


 それを合図にするように何かが迫る気配を感じる前に刀に手をかけ銀の大剣を構えた。


 気配の主は、容易く姿を現す。


 スケイル・ハウンドだった。


 視認できる限り4匹。一人で戦うには分が悪いが────


「視認4匹、扇状に方位されてますね……ですが、ここは任せてください!」


 銀色の剣を輝かせ前へ出るユキ。


「さあ、かかってきなさい────」


 右手をしならせ指を鳴らす動作と供に空を揺らした。


 瞬間ヨゾラへとスケイル・ハウンドが訓練された犬のように一点に注目した。


 挑発でも受けたかのように相手の出方を伺うことなく駆け出すスケイル・ハウンド。


 二匹の攻撃がヨゾラへと届きそうな間合いで、大きく振られた大剣が二匹を両断した。


 鱗が乱れず綺麗に切断されたスケイル・ハウンドはあっけなく血をまき散らしながら地面に倒れる。


 そして、その後衛として控える1匹のスケイル・ハウンドが2匹の影より迫っていた。


 大きく振るった大剣は、二匹を斬った軌跡を描いてる途中で対処が間に合わない。


 『やばい。行かないと』と心の中で呟いた瞬間。


 蹴りが炸裂する。


 打ち上げられたスケイルハウンド。


 俺が蹴ってもあれだけ高く上がるだろうかと思う程に小高く上がる。


 そして宙にいる無防備なスケイルハウンドへと銀色の剣が無慈悲にその首へと突き刺した。


 圧倒的な戦闘を前に見入ってしまった。


 だが、安心するのはまだ早い。


 残る1匹のスケイルハウンドの姿がない。


 ヨゾラが突き刺したスケイル・ハウンドに目をやってる最中、視界から外れて動いていたもう一匹が横から飛び出しユキへと迫る。


 しかし、突き刺したスケイルハウンドを鈍器にしてもう一匹へと振り下ろした。


 4匹に囲まれた戦いは、ユキの圧倒的な戦いによってあっけなく終了した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る