第6話 魔法
「ふぅ……」
付いた血を綺麗に払って鞘へとその銀色の剣を納めた。
一瞬で4匹のスケイル・ハウンドを倒したサユキ。4年間異界探索員をやっていた実力は伊達ではないことを物語る。
「すごい────強いじゃないですか!」
「ま、まあ……ハウンドが相手ですからね。私は嫌という程戦ってますから、これくらいは楽勝です」
「それに最初にやっていたあの動作って一体なんです? 手をこう……前にやって」
「あれは注目を集める魔法です」
「魔法?! ユキさんは魔法使えたんですね!!」
「でも魔法……に近いんですかね」
「でもスケイルハウンドが4匹同時にユキさんを見ましたよ? これはもう魔法ですよ!」
「ああ、でも定義上魔法のうちではあるのかな? これについては魔法について知らないといけないのですが……」
「御教授いただいても?」
「良いですけど、わかりずらかったらすみません……まず、魔法には大きく分けて魂術(こんじゅつ)、奇術(きじゅつ)、魔術(まじゅつ)の3種類があります。奇術と魂術はわかりにくいですが、魔術はよくイメージのつくものですと炎を出したりするやつですね」
「へぇ……もしかして私にもできたりします?」
「ん~。魔術は感覚と素養によるものが殆どだそうで私はからっきしでしたけど先ほどやったものは奇術の類でハルさんも練習すればできるようになりますよ!」
「まじっすか!! 具体的には……?」
「そうですねぇ。感覚ですからね。個人差があるみたいなのですが気と血をめぐらせる……そんな感じ? です……」
「つまり、決まった練習方法がないと……」
「そこなんです。そこがネックでして発動するかどうかは自分の勘頼みになります」
「勘かぁ……」
「はい。私もこの技を教えてもらった人にですね。『こういうものは五感が全てであることを頭でなく体に入れてください。技が一つできるようになれば次第にコツがつかめてくるでしょう』って言われましたね」
「ん~」
腕を前にだす。
ユキがしたようにしてみるが何も起こらない。ただ……パチっと音だけは出せる。
「シラヌイさん……指を鳴らしてるだけじゃ何も起こりません」
「え? ああ……ん~? どういう感じかヒントだけでも!」
「そうですねぇ……なんだかこう。技を出すぞぉ! みたいな?」
「ダスゾー?」
なるほど参考にならない。
そういえばあの青い線が見えた時や蛍火の幻覚ももしかしたら魔法の可能性があったりして……
集中する。
「────」
よくわからない。
「────さん!」
なんだかもどかしい。心のどこかが騒ぎたいと言っているような。
「シラヌイさん!!!」
「うわぁお!!」
「きゃ!!」
「びっくりした」
「びっくりしたのはこっちですよ! いきなり静かになって心がここにないみたいな感じだったんですから!」
「ごめん。集中したら魔法が撃てるかなって思って」
「一朝一夕では無理ですよ。一番大事なことは身体と心を鍛えて階層を踏破することで身に着くというのが一番の近道みたいですからね」
「階層を踏破することがですか?」
「そうです。異界は深層に行けば行くほど力が増すって現象がカギみたいですからね。地上で魔法なんて今まで誰も使えなかったじゃないですか」
「なるほど……」
「自身がこれまで何をしてきたのか。どういったことをやってきたのか。そういう積み重ねが経験となって階層を進んだ時に力として体現するって……これも受け売りですが」
「師匠がいたのですか?」
「ん~。みたいな人ですかねぇ。少しの間しか話したことはないんですけど異界を旅してるって言ってたので、今もどこか探索を続けていると思います」
「そしたら進まないことには始まらないんですね」
「なので焦らないことが一番ですね。そのうちシラヌイさんも何かできるようになるりますよ!」
何をしてきたかが経験になり力になる。まだ1~5階層程度では何もしてないのと同じなのかいまいち実感がわかない。
自身の手を見る。
少しは刀を振るえるようになったと思ってはいたが先ほどのヨゾラの戦い方を見ているとまだまだ先がるのだと思い知らされた。
少し気が遠くなるようでいて目標ができたような。そんな楽しさがそこにあった。
いつになく先のことを考えながら前へと進む。
森を抜け白い岩が点々としている場所に辿り着き遺跡が近くに見えてきた。
遺跡の入り口だ。
どこかパルテノン神殿を思わせるような遺跡。一つ気がかりなのは、あのゴーレムと出会わなかった。
周回でもしているのだろうか。
広く苔むした白い石畳のある広場へと辿り着いて周囲を警戒しつつiFunを取り出して写真を撮るサユキ。
「大きな木の周囲に耳の長い人達が崇めてるような彫刻がされています。ここは何かの祭祀を行う場所だったようにも思えますね! ハルさんのおかげでとてもいい場所を見つけられました! 帰ったらチナちゃんにも見せよっと」
喜んでくれて何よりだ。
そんな遺跡へと興奮気味にiFunをかざす微笑ましい光景に水をさすように威嚇するシロ。
威嚇が始まったしばらく後に遺跡の中からずっしりと重い足音が響いた。
次第にその姿があらわになり苔むした白い西洋甲冑ともとれる鎧を身にまとう大きなゴーレムが大剣をかついで現れたのだ。
「あれが話にあったゴーレムですね?」
好きなものにはしゃいでいた顔を引き締めるサユキはもう銀色の剣を両手に握っていた。
「そうです……」
言わずもがなこちらも刀を手にかけいつでも戦闘ができる態勢を整える。
上空には大ガラスの姿はなく周囲にもスケイル・ハウンドの姿はない。正面からゴーレムと1対1でやりあえる。
倒すのであればこれほどの好条件はないだろう。
そして遮る壁のない状況の中奴はこちらへと一直線に大剣を構えて走り出した。
「ハルさん! こっちへ!!」
ヨゾラが何かを気にするように走りだす。それに従うようについていくと遺跡から少し外れた草原に場所を移す。
「ここなら、思う存分やり合えますね。派手に壊さずに済みそうです────さあ、来ますよ!!」
「なるほど────」
感心する間もなくゴーレムは追いつき量の腕で支える大剣を振り下ろした。
はじける土埃。
根っこごと衝撃で飛ばされる植物。
あいつの腕力がどれほどのものであるかを再度認識し向き直る。
「さあ、私が相手です!!」
右腕を前に誘い出すようなポーズをした瞬間見えない何かが波動となって周囲に行き渡る。
ゴーレムは、サユキへと視線を移し大剣を構えなおす。すかさず前傾姿勢を取った。
「ハルさん! 私が正面を受け持ちます。その間にできそうであれば攻撃を」
「わかりました!!」
重いだろう体を自由に動かし大剣をぶん回すゴーレム。
その一撃を見切っては避けてを繰り返すサユキ。
そうか。今まで戦ってきた相手はアラネアやカマイタチ。そしてレオボアだけだった。
カマイタチはともかくとしてレオボアやアラネアは複雑な攻撃は仕掛けてこない。
一直線で隙が多く倒しやすい魔物だった。
だが、ゴーレムは違う。どこか剣術を覚えているような大剣の扱い方で大剣を振り回し容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
そんな相手と初めて戦うのだ。
攻撃を受け持つと言っていたサユキは、派手に攻めず守りを貫いている。ゴーレムをしっかりと戦いの中で観察しているのだ。
容易には倒せない相手。
一撃でも貰えば即死してしまいそうな大剣。
攻めたとしても剣なんかは受け付けないだろう硬そうな鎧。
傍から見れば剣で倒すことに絶望を覚えるようなそんな相手をこれから倒すのだ。
────よく見ろ。
カマイタチの動きを見て攻撃を当てられるまでに時間がかかったが、ゴーレムの動きはそこまで速くない。
1撃、2撃と大剣を間髪入れずに振り回す。そして徐々にサユキは銀色に輝く刀身を鈍器に見立てゴーレムにあてたがゴーレムはびくともしない。
当てるだけではどうにもならなさそうだ。
なら、鎧と鎧の隙間。そして関節の駆動部分を狙うのが定石なのだろう。
気が付いたら大きなゴーレムを見ておびえて竦んでいた自分の足はなかった。
自然と駆ける。
サユキが作り出した時間を無駄にしないため。そして先へと進むため刀を抜いた。
大きく振りかぶった横薙ぎの勢いが隙を生む。瞬間奴の足の関節へと一閃。すると白い鎧がメッキのようにひび割れた。
その衝撃に気づいてすぐさま大剣をこちらへと振り下ろすも大振りな攻撃にあたるはずもなく横へと避ける。
「ハルさん!!」
「大丈夫!」
思いのほかぎりぎりで避けていたらしく大剣はすぐ隣をかすめる。
避けた隙を見逃さずもう一度膝裏へと刀を叩きこむとひび割れた所が剥がれ落ち、血が流れた。
「「血?!」」
驚きヨゾラのところへと後ずさる。
ヨゾラも距離を取り銀色の剣を前に構えた。
「ゴーレムって血が出る物なのですか?」
「わからない……です。でも何かおかしい。私もゴーレムの類とは何度か戦ったことがありますが血の出るゴーレムなんて初めてです。ですが……これは弱点だと思います。きっと────だから、これから重点的にあの足を攻めましょう!」
「了解!」
足を抑えるゴーレム。崩れた破片を元に戻そうと片腕でそれを拾おうとしている。
その動作の隙を刀で狙うも大剣でガードされ弾かれた。
サユキも、その部位を狙うも腕に阻まれうまく行かないが運よく腕の関節部へと銀色の剣が食い込み白い苔むしたメッキが剥がれ落ちる。
徐々に、そのメッキは動くたびに剥がれ血が滴る。
腕、足、太もも、体……打ち合う度に攻撃を加えた場所。そして最後に顔の順に奴の白い苔むした石のすべてはがれた瞬間。
「ぐぉおおおおおおおおおおおおお!!」
すさまじい叫び声と供に剣にまとわりついた苔むした石を岩に叩きつけて割った。
「ハルさん! 様子がやっぱりおかしい逃げ────」
その言葉を最後まで発することなくヨゾラへと身軽になったゴーレムの黒い色の大剣が襲い来た。
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