第10話 相棒 1-2

「グルゥ……ワンワン!!」


 その鳴き声と供に近くに何かがいるのを察知する。


 颯爽と迫りくる2匹のカマイタチ。早さに物を言わせ攻撃をしようとするも刀で待ち構え対処する。


 高鳴る鼓動。いまこの一瞬だけ代謝が上がるかのような力が湧き出る感覚。


 態勢を変えた瞬間。やつらが迫る。


 軌道を変えつつ狙いを定めさせないような動きをしているが、すばやく横にステップをいれ直角にこちらへと飛びついてきた瞬間。


 刀は置くだけで充分だった。


 相打ち。


 爪は鎖帷子の開いた部分に刺さり激痛が走る。そして一匹の子カマイタチがこときれた。


 きっとこれを相打ちと呼ぶには払った代償が違いすぎるだろう。


 激痛の中、余裕があるかのような考えを振り払いもう一匹を見て同様の工程で一閃し戦闘に蹴りをつけた。


 カマイタチは確かに強敵だ。


 強敵であるが初動の攻撃パターンや癖が決まっているため初手から3手くらいで倒せればそんなに難しい敵ではないことに気づいてからすんなりと倒せている。


 そんな姿を白柴はただただじっと見つめてるだけだった。


 それでいい。怪我でもされたらかなわない。


 じっと見つめてくる白柴をこちらもじっと見つめ返したら。


「グウゥゥゥ、ワンワン!!」


『何見てんだこら!』というように怒られた。


 なんとまぁ、理不尽な犬だろう。


 後ろから付いてきては何かが近づいてきたり異変が起きた時だけ吠える。普通こういうのって前へ出て匂い嗅いだりして進むのが王道なのではないのだろうか。


 白柴の視線を感じつつ先へ進む。


 第二階層。


 森をまっすぐ通り抜け絶壁の山に到着する。


「ああ~、どうするべきか……」


 白柴を持って上へあがるか。リュックに入れるにしてもカマイタチの爪が入っているため白柴に刺さりながら登ることになってしまう。


 だが白柴は、冷静にこちらを見ている。


 ロープを取り出して命綱を取り付けてから白柴を持ち上げようとした時だった。


 白柴は器用に首元へだらりと張り付き背負われるような姿勢でしがみついてきた。


『さあ、行け!』


 顔が全てを物語っていた。


 せめて命綱をしてあげたいところであるが……首輪くらい買っておけばよかった。と後悔する。


 だが、白柴はがっちりとしがみつき離れないように固定されている。


 そのまま順調に登り続けてようやく山頂まで来た。


 すると奇妙な光景を目にしてしまった。


 ゴリラマリモが黄色い木のみを取って下へと投げたのだ。かなり大きな木のみであるが巨大な手でつかみとり野球選手のように投げる。


「グゥルモウ!」


 何かが「べっちゃーん」とはじける音がする。


 投げた瞬間の鳴き声は、とても低い鳴き声で下にいる愛くるしいやつらとは全然違うギャップがまたなんとも言えない風格をかもしだしていた。


 木のみを投げ終わると、大きな木によちよちとよじ登り太い幹に腰を掛けているのかわからないが前と同じ定位置に戻った。


 とても不思議な生き物だ。


 背中にしがみついていた白柴は、サッと降りてただただゴリラマリモを見つめていた。


 両者ともに不思議な生き物であることを感じつつ先へと進む。


 第三階層。


 黄色い花々が咲き乱れ、石のアーチがそびえ立ち、茶色い木々が生える森の階層。


 しかし、その先へと進むと半分草原に近い階層であることがわかる。


 かがやいている太陽のような天井は少し赤みを帯びてまるで夕日のような景色を作り上げていた。


 白柴が反応しない。


 ということはきっと周囲に敵対する魔物がいないのだろう。カマイタチと出会った時は速く異変を察知して知らせてくれた。


 その感覚はとてもありがたい。


 だが、マリモには何も興味を示さなかった。


 敵対しない魔物には何もしないのであろうか。増々不思議な白柴だ。


『早くいかないのか』とこちらを見つめる白柴。一定の距離を保っている。


 近づきすぎず遠すぎず。


 これが俗にいう柴距離というやつなのだろう。


 白柴から目を離して前へと進もうとした時だった。


 何か文字らしいものを見たのだ。


 さらっと見逃した文字は、石のアーチの根元に書かれていて掘られていた。


 英語、韓国語、中国語、ロシア語、はたまたラテン語……


 そのいずれの文字でもないような見たことのない文字だった。


 だが、そこに刻まれた文字はただ一言だけ書いてあるように見て取れる。一体何が書かれているのかは知る由もない。


 ここに文字が刻まれているということは……かつて、ここに文字を扱う文明が存在していたことなのだ。


「これってめっちゃくちゃすごい発見なんじゃないかな」


 お金になりそう。


 そんなゲスな考えを鎮めまじまじと文字を見た。


 跳ね上がるような綺麗な文字。


 そもそも異界というのがどういう場所なのか人類はまだ掴めていないのだ。切り離された空間。新しく現れた異次元。未知の知識と力。


 魔法もその一つであるが、それらを解明できる日がくるのだろうか。


「ま、凡人には関係のない話か」


『そうだな』


 なにか視線を通して聞こえた気がするが考えすぎだろう。


 白柴……


 そういえば、この柴犬に名前を付けていなかった。5年も長い付き合いになるというのにあんまりな話だろう。


 いや、飼っていたわけではないのだけれど……


「シロし……ば……そうだ。今日からお前はシロという名前だ」


 呆然とこちらを見つめてくる。気に入ってるのか気に入らないのかわからない表情を作りただただこちらを見つめる。


「シロ! ほらほら、ここに文字がかいてあるぞ~? 読めるか?」


 シロに近づいて抱っこして文字の前に持ってくる。


『読めると思ったか?』


 そんな顔で見るなよ。犬が文字なんて読めたら一芸として動画をUPしたりしてそこでひと儲けするわ。 


 とりあえず謎の文字を見たところで何かがわかるわけでもないためそのまま先へと進むことにする。


 気持ちの良い風。


 見晴らしが良いのでそのまま駆け抜けて小高い丘の上へと立つと草原が広がっていた。


 ところどころに何かがいるのが見える。


 4足歩行の何かだ。


 緑色と黒い色をした何かがうごめいているのがなんとなくわかる。


 あまり近づくとろくなことにはならないだろうそれらは結構いたるところにいた。


「あれにはあまり近づきたくないな……」


 それにあの大きなカラスはいなさそうだ。一旦ホッとして再び周りを見渡すとここを中央と考えて東側に大きな木が1本。北側にもう1本大きな木があった。


 そこらへんに自生しているものとは明らかに違う木であからさまになにかがいるだろう匂いがする。


 犬ではないのでそんな匂いはしないのだけれど、もしかしたらその場所に下の階層へと降りれる場所があるかもしれない。


 草原を避けて右方向へと向かい森を抜けると今度は石の柱だろうか。そんなものがゴロゴロと転がっている場所に辿り着いた。


 ところどころ自生している黄色い木の実をつけた木があり二階層にあったものと少し似ている。


「あの木の実食べれるかな。マリモ達も普通に食べてたと思うし、多分食べれると思う。でも、お腹壊したら大変だと思わないか? シロ」


『食べなきゃいいんじゃないか?』


「いやでもな。レオボアのお肉美味しかったじゃないか。異界で見つける新たな食をみつけたら感動的だと思わない?」


『……』


「う~ん、食べるべきか。食べざるべきか……シロはどう思う?」


『どうも思わないが』


 興味がなさそうにそっぽを向くシロ。


 あの木の実を食べるべきか食べざるべきか一人自問自答した結果、木の実を取りに行こうとしたその時だった。


「グルゥゥゥゥ、ワンワンワン!!」


 シロの様子が変わった。


 即座に戦闘態勢に入り刀を抜く。


 草原を蹴る獣の足音が聞こえ一直線に迫ってきた。首元へと飛びつこうとしてきた奴を刀で払いのけやり過ごす。


 それから取り囲むようにそいつらはこちらの退路を断った。


 スケイル・ハウンドだ。


「1,2,3、……6、7……7匹いる」


 まずい、1匹のスケイル・ハウンドを囮にして獲物を取り囲んできた。取り囲まれるような戦いはこれで2回目になるがあの時はアラネアだった。


 けれど今回はスケイル・ハウンドが相手だ。どう考えても無事では済まないだろう。


「シロ……そうだ。シロ!! どこだ!」


 刀で周囲のスケイル・ハウンドを牽制しながらシロを探す。すると石の柱の上でこちらを見つめていた。


 無事でよかったがいつそんなところへと登ったのか少し問い詰めてみたい。


 こういう時、囲まれた時だ。囲んだ獲物を攻撃するなら、どこが一番やりやすいか。


 そう背中だ。


 草を踏み抜く音が背後より迫る。


 こちらまでの距離はあと2~3歩といったところだろう。


 前で牽制したスケイル・ハウンドを無視し斬り上げ背後より迫る者に振り下ろした。


 首元に一閃。飛び散る血飛沫は周囲のスケイルハウンドをひるませる。


 囲んだ包囲網の一端が崩れかけたのを感じそこにいたスケイルハウンドへと駆けたところで風を切る音がした。


「ワン!! ワン! ワンワン!! ワン!!」


 高いところから落ちてきた衝撃で土煙が舞う。回転しながら降りてきた黒い何かはスケイルハウンド、4匹を一瞬にして黒い翼の中に多い隠した。


 地面に着地した後もその回転は止まず、風を巻き上げてその姿をあらわにした。


 



 

 


 

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