第35話 黒レースパンツにキャミソールしか着ていないけど

 家に帰りつくと、すぐにリビングから黒いレースパンツと淡い水色キャミソール姿の姉ちゃんがやってきた。


 菜箸を持っているので、どうやら料理中らしい。


「おかえり辰馬。いやー、真の男になった辰馬様の御帰還ですよ。めでたいですねー。お赤飯炊いてるから! おかしら付きの鯛もあるわよー」

「うん。ありがと」


 とりあえず感謝しておく。


 姉ちゃんがなんて言ってたかはもう覚えていないけど。


「俺シャワー浴びるから、ご飯はその後で」


 それだけ言い残して姉ちゃんの横を通り過ぎようとすると、


「ちょっと待ちな」


 姉ちゃんから腕を掴まれた。


「なにかあったのね?」


 姉ちゃんと目が合う。


「……いや、別に」

「嘘つかない。私が辰馬のこと、見抜けないと思った?」


 敵わねぇな。やっぱり。


 姉ちゃんはすごい。


 だからこそ、多くの人に頼られる生徒会長になれるのだろう。


「すげぇな。やっぱ姉ちゃんだわ」

「私を褒める暇なんかないでしょ。大丈夫。言わなくてもわかってるから。男になる前に興奮しすぎて果てちゃったんでしょ? 初めてってそういうものだから気にしちゃだめよ」

「ちげーよ! なわけあるか!」


 前言撤回。


 姉ちゃんはただのエロおやじでした。


 この流れ前にもあったなぁ。


「強がらなくていいのよ」


 俺の言葉など完全無視の姉ちゃんは俺をぎゅっと抱き寄せた。


 顔がむぎゅっとたわわな胸の間に押し付けられる。


「やめろって姉ちゃん。俺いま死ぬほど汗かいてて臭いから」

「辰馬が臭いわけないでしょ。お姉ちゃんも悪かったわ。辰馬はまだ慣れてないだけなの。こうやってお姉ちゃんで慣らしていって、徐々に女の子というものに慣れていけばいいから」

「だから違うって」

「いいのよ辰馬。お姉ちゃんは踏み台よ。存分に利用しなさい。そして、いつの日かお姉ちゃんを卒業する日が来たら……ああ! だめ! 悲しくて涙が出る! お願い辰馬! お姉ちゃんを卒業しても、たまには、月に一回でいいから、お姉ちゃんのことを求めてくれれば!」

「そもそもそんなことしに行ってないってば! 勉強会だって!」


 なんとか姉から離れることに成功する。


 このエロブラコン野郎……。


 でも、いつも通りの姉ちゃんを見て、心が落ち着いたのも事実だ。


「勉強会って辰馬あなた……鈍感すぎない? 知佳ちゃんのそんな口実を信じたの?」

「口実じゃなくて事実だから」


 呆れたように肩を落とす姉ちゃんに言い返してから、俺はふぅっと息を吐きだす。


「あのさ姉ちゃん」


 姉ちゃんの目を真っすぐ見て言った。


「ちょっと聞いてほしいことあって、いいかな?」

「もちろんよ」


 姉ちゃんは、俺の期待通りの暖かな笑みを返してくる。


「お姉ちゃんが辰馬のお願いを聞かなかったことあったかしら?」

「じゃあ家でもちゃんと服を着てくれ」

「それとこれとは話は別よ」

「なんだそりゃ」


 俺は笑っていた。


 姉ちゃんのペースに乗せられて、手のひらの上で踊らされている感じが、実は嫌いじゃない。


「廊下で話すのもなんだから、リビングに行きましょう」


 姉ちゃんの後について行きながら、パンツにキャミソール姿じゃなければもっと映えるのになぁと、俺は思った。


 

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