Order4 怪物(改稿中、続きにはなりません)
男三人はラキアの横を通り過ぎると、トサカ頭の男と前髪の長い男が真っ先に、ノエルを取り囲んで両腕を掴み、身柄を抑え込んだ。
「や、やめてよ。触らないでっ……!」
ノエルは必死にもがくが、彼らの手は頑丈で振りほどくことはできなかった。
「騒ぐんじゃねぇ、クソ
「安心していいよ~。そのあと、仲良くお兄ちゃんも奴隷商行きだからさー」
「へへへっ。調子に乗りやがって……っと、お前。いい体してんじゃねぇか。こりゃあもったいねぇ。売り飛ばす前に、俺たちで一回遊んじまおうぜぇ」
筋肉質の男は下卑た笑みを浮かべながら、ノエルにゆっくりと近づいていく。
男が彼女の豊満な胸を触れようとしたとき、肩口をガシッと掴まれる。
「……触るな。……妹に触るんじゃない……!」
ラキアは眼力を尖らせて、声色を低くして男たちを威圧した。
「ちっ。
筋肉質の男は、肩口を掴んできたラキアを強く突き飛ばした。
ラキアはそのまま後ろに倒れると、追い打ちをかけるように男三人で、ラキアを痛めつけた。
ラキアはそれに対して何も抵抗をせず、うずくまっていた。
「ひっひっひっ。何も出来ねぇくせに、出しゃばってくるなよ」
「うちの兄貴に立てついたのが、悪ぃんだよ! オラァッ!」
「妹にかっこいいとこ見せたいってか? 残念だね~。シスコン兄さんっ!」
それからも三人はラキアをいたぶることはやめなかった。
彼は顔を殴りつけられ……腹を蹴りつけられ……サーベルで軽く斬りきざまれ……
意識が朦朧とするほど痛みつけられていた。
そんな彼の揺らぐ視界の先に、男たちを止めるノエルの姿が見えた。
「やめてっ! お兄ちゃんから離れてっ!」
「うるせぇ! おめぇは引っ込んでろっ!」
「ぐっ……!」
筋肉質の男が、軽くノエルを突き飛ばした。
その光景を、朦朧とした視界でラキアは見ていた。 ……見てしまったのだ。
「これが最後だぜ。情けねぇな。お兄ちゃんよぉ!」
筋肉質の男がニヤニヤしながら、ラキアを殴りかかった刹那。男は一気に形相を変えた。
今まで無抵抗だったラキアが、男の殴った拳を素手で受け止めたのだ。
「お前……ノエルを殴ったな?」
ラキアは男の拳を強く外側に大きくひねった。
男は「痛い痛いっ!」と悲痛な声を上げる。ラキアはそこでさらに男の拳を強く掴んで、薙ぎ払うように男を投げ飛ばした。
ラキアに倒れたまま投げた男は、十五
ラキアはふらふらと体を揺らしながら立ち上がる。
そのときラキアの体からは、黒々とした底知れない殺意が漏れ出していた。
「お前……そんな体で、なんで……?」
「…………」
筋肉質の男の言葉に対して、ラキアは何も言葉を発さずに、ゆっくりと筋肉質の男に歩みよる。
ラキアからあふれ出るオーラに圧倒された筋肉質の男を含めた三人は、体を
そんな中、ラキアの背後にいたトサカ頭の男が「あ、兄貴に近寄んじゃねぇ……!」と情けない声を出しながら力を振り絞って立ち上がり、ラキアに不意打ち狙いでサーベルを振りかざす。
だが、その攻撃はラキアに見破られ、振り向きざま手首を掴まれる。
「……クソッ! 離せっ! 離せよっ!」
「…………」
トサカ頭の男は、離させようと打ち上げられた魚のように暴れるが、それも束の間。
ラキアは男の手首を引っ張ると、片方の手で思い切り肘を打ち上げ、グキッ! っと鈍い音を立てて、関節を外した。
「あ、ああぁああぁあ……っ!」
断末魔のような叫びをあげて、トサカ頭の男は肘を押さえながら野垂れて苦しんだ。それを前にしたラキアは、顔色を変えることはなかった。
その光景を見て、前髪の長い男は強い恐怖心を覚えたのか、目を大きく見開いて、「ひ、ひぃぃぃ……!」と悲鳴を上げる。
ラキアは悲鳴の方をゆっくりと振り向き、今度は彼の方へとゆっくり近づく。
男は立ち上がれず後ずさり、震えた声を漏らす。
「嫌だ。殺さないで……ごめんなさい。僕が悪かったです。お願いします。なんでもしますから。だから、だから……ギャァアァアアッ!」
ラキアは一切表情を変えず、男の顔面を蹴り飛ばした。
男は軽く吹っ飛ばされ、その場所で放心状態になる。
ラキアはゆっくりと吹き飛ばされた男のもとに向かい、男の顔面を数発殴って白目をむかせた。
ラキアはゆっくりと立ち上がり、再度筋肉質の男の方へと顔を向けた。
ラキアは青い瞳を鋭く光らせ、男を睨みつけた。その瞳を見た男は何かを思い出し、顔を青ざめてひきつらせた。
「……ちょっと待て。
「…………」
ラキアは何も発することなく、男の方へと近づく。
「……なにが、『
その言葉を漏らした時にはもう、ラキアは男の前にいて、拳を振りかざしていた。
顔を殴りつける鈍い音と同時に、男は無様に倒れこむ。ラキアはそれだけにとどまらず、男の上に乗っかり、右手で男の顔を殴りつけた。
それだけでは物足りず、もう一発……もう一発……と右手で顔を殴り続け、打ち付ける速度も徐々に速まっていき、それに連れて地面に男の血液が飛び散った。
ラキアはもう、自分の中にある激情を止めることはできなかった。彼自身、どうしてここまで怒りをあらわにしているのか、わかっていない。ただ、自分の中からマグマのようにあふれ出る殺意が、勝手に体を動かしていたのだ。
もう何回目……いや、何十回目だろうか。どれだけ殴ったかも覚えていない。
次、拳を振り上げたとき、ガシッと腕を掴まれる。
「お兄ちゃん、もうやめて……やりすぎだよ……」
ラキアはノエルに腕を掴まれ、ようやく理性を取り戻した。
冷静になってから改めて殴った男の顔を視認すると、彼はもちろん気絶していて、顔は血まみれで、酷くはれ上がっていた。
正直言って、見るに堪えないありさまだった。
ラキアは男の上から立ち上がり、ジンジンする右拳を左手で包み込んでさすった。
「……悪い。血が昇った。ノエル、怪我無いか?」
「私は、全然大丈夫だよ」
「そっか。ならいいんだ」
やりすぎたことを自覚しているラキアは、思わず顔を曇らせる。
「……もう行こ。御者さん待ってくれてると思うから」
「……あぁ」
ノエルはラキアの肩に手を添えて、御者の待つところまで歩いていった。
◇◇◇
家に戻ったラキアは、早々ノエルに手当てしてもらった。
手当の結果、ラキアは頭や腕が包帯でグルグル巻きになった。これじゃあ、この後会いに行く人になんて言われるだろうか……。
「
「じっとしてて」
ラキアはノエルに水で冷えた濡れタオルを顔の腫れた部分に当てられ、思わず声を上げるが、ノエルは嫌がる彼を押さえて患部を冷やしていた。
その間、ラキアは会話を交わすことなく、何か気まずそうに目をそらしていた。
無理もないだろう。あの三人を駆逐していたとき、ラキアは本当に我を忘れていた。彼自身この行動を深く反省している。だが、彼が一番悔いていることは、ノエルにあんな醜い姿を見せてしまったことだ。
「……ねぇ。なんであそこまでしたの?」
ノエルはラキアの顔を当てたまま、小さな声で問いかけた。ラキアは口を開かなかった……というよりも、開けなかった。
「私のためなのはわかるよ。それは感謝してる。けど、あれはやりすぎだよ」
「……あぁ。自分でも思ったよ」
「じゃあ、なんで……」
ラキアは何も言わず、ふと壁にかかった時計を見た。商人と会う約束の時間は昼過ぎで、もうそろそろ家を出ないといけない時間だった。
「……ありがとうノエル。そろそろ行かないと、アントラルさんのところ」」
と、ラキアはノエルの手から離れて立ち上がる。
「え、その怪我で行ける? 無理しない方が……」
「大丈夫だよ。それに、ただの買い物だから」
「……うん、わかった。……気を付けてね」
ノエルは心配そうな顔をしていたが、何とか笑ってラキアを見送った。
「あぁ。行ってきます」
ラキアはそう言葉を残して、階下に降りて行った。
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