第12話 優しい『平和主義者』の毒舌

 殺気を放った幼女の姿におびえる誠に、彼女は優しい笑顔で手を差し伸べた。


「大丈夫か……驚かしてすまねーな。アタシは『平和主義者』なんだ。傷つけることも人が傷つくのもれーだ」


 ランは微笑みはどこまでも優しかった。


 ちっちゃくて『萌え』で『キュート』な姿かたちと、優しくて知的なランの言葉に誠は魅了されていた。


 誠はランの差し伸べた小さな手を握る。暖かくて優しい8歳児の女の子の手だった。


 それは決して、『内戦』の行方を左右した『無敵のエース』の手であるとは、誠には思えなかった。


「とりあえず車に行くぞ」


 握手が終わると、自分の姿にうっとりとしている誠に向かってランはそう言った。


 誠は自分の胸にも届かない身長の『敗戦国の英雄』と呼ばれた幼女を見つめた。


『小さい……でも、あの目……『遼南内戦』は壮絶だったと聞くから……このかわいい子は……人を殺してるんだ……』


 小さなランの背中を見て我に返った誠は、自分の荷物を持ち直して彼女の後を追った。


「オメーは人殺しに向いてねーな。気に入った!」


 ランはよたよた自分の後ろを突いてくる誠に振り向くと満足げ笑ってそう言った。


「へ?」


 一応は誠にも『軍人』になったという自覚はある。しかし、目の前の『かっこかわいいヒロイン』は誠の理解を超えた言葉を口にした。


司法局実働部隊うちはオメーみたいな『落ちこぼれ』の『倉庫作業員』を必要とする部隊なんだ!」


 意外な一言に誠は『カチン』ときた。


 誠も自分が軍人としては『落ちこぼれ』であることは自覚していた。


 しかし、『倉庫作業員』になるために軍に入ったわけではない。


 一応、理系のいい大学を出ているのである。誠にもまだプライドが残っていた。


 誠は口をとがらせて、生意気な幼女を慎重さを生かして見下ろした。


「あのー、『司法局実働部隊』って『倉庫作業』をやるんですか?それに『特殊な部隊』って聞いてますけど、『特殊な倉庫』で変なものを運ぶ仕事をするから『特殊な部隊』なんですか?」


 さすがに温厚なも馬鹿にされていることに気づいて、ランに嫌味を言うくらいのことはするのである。


 どうせ東和共和国宇宙軍で『特殊な部隊』と呼ばれる奇妙な部隊の『偉いかわいい子』である。


 いくら誠のツボを突く『萌え』でも言っていいことと悪いことがある。


 誠はあくまで『大人』として、ランの偉そうな口調を治すべく誠はランを見下すように見つめた。

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