第11話 この幼女は『強い』らしい。誠はそう直感した

「本当に君は『クバルカ・ラン中佐』なのかな?……本当に『エース』なのかな?」


 そう言うのが精いっぱいだった。もし、誠の感受性が豊かであれば、現実を見つめられずにそのまま家に帰宅して終生外界との音信を途絶するぐらいのショックを受けていても仕方のないような出会いだった。


 どこからどう見ても、ただの少し目つきが悪い少女にしか見えない。


 10年前の『激しい内戦』の勝敗を左右したほどのエースパイロットだということを認めたとしても、それが8歳の幼女であるということがなぜこんなに世間で騒がれないのか理解できなかった。


 その、クバルカ・ラン中佐を『自称』した幼女は腕組みをして誠を見上げる。


 ただ、その『風格』は、一応は成人している誠からしても普通の幼女とは一味違う雰囲気を醸し出していた。


「『エース』かどうかはアタシは興味がねーな。ただ強いのは間違いねーよ。『間違いなく最強』だ」


 ランは自分は『間違いなく最強』だと主張した。


「嘘ですよね……ちっちゃいじゃないですか……『最強』だったら大きくないと……力とかどうするんですか?」


 明らかに大げさすぎるランの表現に誠は本音を口にしていた。


「オメー本当に大学出てんのか?『コンパクト』&『ハイパワー』。これがアタシのキャッチフレーズだ」


 自信満々にランはそう言い放った。


 別に『軽自動車』の宣伝文句を言ってくれと頼んだわけではないが、その根拠のよくわからない迫力に押されて誠は黙り込んだ。


「何か?質問は?なんでも答えんぞ!」


 8歳ぐらいのライトブルーの軍服を着た幼女にしか見えないランは腕組みをして誠をにらみつけた。


 この態度には誠も見覚えがあった。


 いわゆる『説教モード』である。


「まず、強いつえーことには条件にはいくつかある。第一に、命を奪いかねない経験。そして、本当なら死んで当然の経験をしている……この二つを経験しないと『強いつえー』とは言えねーな。ただ、この二つは物理的に強いかだけだ。『人間』が出来てりゃ、赤ちゃんでもOKだ。舐めるなよ、赤ちゃんを」


 そう言ってほほ笑むクバルカ・ラン中佐だが、誠には偉そうな8歳女児にしか見えない。


「赤ちゃんが……強いんですか?」


 どうやら『説教』には慣れているランに誠はそんな問いをぶつけてみた。


「そうだ、赤ちゃんだってすでにものすごく『強いつえー』。おそらくまともな人間なら、絶対ぜってー勝てねーな。言うだろ『泣くこと地頭じとうには勝てねー』って」


 誠は高校時代の『国語』が大の苦手だったので、そんな『ことわざ』を知らなかった。


 結局誠はランの言葉の意味がよくわからなかった。


「生き物の『命』はみんな『強いつえー』んだ。そーでなきゃ生きる意味はねー。違うか?」


 ランはそう言うと誠をにらみつける。


 その可愛らしい幼女の姿から想像できない鋭い眼光に誠は恐怖を感じた。


 小さなランから放たれる圧倒的な『殺気』。誠はその雰囲気にひるんで、思わずしゃがみこんだ。


『……この子……口だけじゃない。雰囲気でわかる。圧倒的に『強い』……」


 誠は実家は剣道道場である。


 道場主の母を訪ねてきた、名のある『武闘家』にも何人も出会っていた。


 彼等の持っている『雰囲気』を知っている誠はでそう確信した。


 ランは黙って、その幼い見た目とはかけ離れた余裕のある微笑みを浮かべた。


 結果、誠はクバルカ・ラン中佐が『かっこかわいい幼女』であると確信して、彼女についていくことを決めた。

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