第4話
アイを仲間に加えた中央制御室の面々は、すぐまた仕事へと戻った。奥の壁に据えられた大スクリーンには、先ほどから黒々とした宇宙空間が映し出されており、その中央に小さくうっすらと白い天体の姿が捉えられていた。
モレノは、アイに説明した。
「映っているのは、冥王星だよ。かつては堂々たる太陽系第九惑星だったが、現在では没落して準惑星という地位にある。周囲に散らばる細々とした光は、エッジワース・カイパーベルトを成す、いわば無数の星々のかけらだと思えばいい。ここから30億キロマイル、日本式に言うと48億キロメートルほどの彼方だ。太陽系の端っこで、太陽の熱も光もほとんど届かぬ極寒の闇の中だ。リアル・タイムではないが、これは実際にあの場所を飛行する、我々の宇宙探査船が撮影した映像だ。」
アイは目を丸くして、モレノを見た。
「じゃ、ニュー・ホライズンズが、まだあそこに居るの?」
「いや、別の船だ。ディヴァイン・コメディ号だよ。実は同時進行していたまったく別の探査計画でね。」
モレノの隣に立った、ブルーのシャツ姿の女性研究者が補足した。
「わたしたちは、NASAからの出向組よ。この計画はまだ極秘で、新設間もないアメリカ宇宙軍が主導する初仕事なの。でもまだあちこち手が足りないから、臨時に私たちが駆り出されたってわけ。正直なところを言うと、NASAのほうから宇宙軍に乗っかっているのよ。そのほうが遥かに予算獲得がラクだから。」
そう言うと彼女は微笑み、アイに手を差し出した。
「シンシアよ。どうかよろしく。カールが説明したとおり、現地は遥か彼方の深宇宙なの。いま私たちが見ている映像は、D.C.号本体が直接撮影した、地球時間でほぼ二日前の映像よ。もうすぐクロースアップするわ。」
すると彼女の言うとおり、まもなくスクリーン上の映像はパッと切り替わり、真空の闇の中に、凍りついた窒素とメタンからなる氷の準惑星がその白く茫っとした姿を現した。するとカメラはぐんぐんと寄って、この天体の地表のあちこちを舐めるように映し出して行った。それは赤黒い堆積物と真っ白な氷原とで構成されたスリートーン・カラーの世界で、寒々とはしているがどこか華やかさを帯びた光景に見えた。スクリーン下方の一区画には、もはやこの天体の名刺がわりとなっている、特徴的なハート型の大氷原が浮かび上がっていた。
「ところが・・・私たちの最終目的地は、ここではないの。」
シンシアは言い、闇に向け指をパチリと鳴らした。
またも画面が切り替わり、今度はスクリーンに入りきらないくらい、目の前いっぱいに別の天体が映し出された。冥王星ほどの華やぎはないが、同じような氷原と、どこかくすんだ巨大な痘痕のついた姿が映し出された。
「こちらは、その冥王星が従える最大の衛星、カロンよ。両の星はわずか2万キロメートルほどしか離れていないの。だからカロンは衛星ではなく、冥王星との二重星というべきなのかもしれない。北極のあたり一帯を覆っている
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