第3話

以前に中東の某基地にある、同じようなオペレーション・ルームに入った時、中に居たのは、まったくもっていい人たちではなかった。彼らはみな殺気立ち、苛々していて無慈悲だった。常に悪態をつき、誰かを罵り、「ブーン!」と唾を飛ばしながら叫んで、モニターに映る誰かわからぬ異国の人間たちの不鮮明な影が煙に覆われて四散すると、拳を握ってガッツポーズをとっていた。


アイを連れてそこに入ったモレノにとっても、その光景はいささか遺憾に思えるものだったらしい。当時彼は階級が低く、ルーム内の狂人たちに命令できる権限を持ち合わせていなかった。だから最初は、できる限りやんわりと注意した。


「みんな、気持ちはわかるが、軍人としてまずは交戦規則を遵守すべきだろう。特に無人機による市街地での遠隔攻撃については、きちんと定められた攻撃許可までの手順プロトコルがあるはずだ。」


「ところがどっこい、規律に厳しく敵にはお優しい、人格者の指揮官殿がご出張中でしてね!」

ルームを預かる代理指揮官が、不精髭だらけのだらけた顔でモレノに口答えした。

「議会のバカどもがてめえらの保身のために定めたクソめんどくさいプロトコルなんざ、戦場ここではなんの意味も、ありゃしないんで。だいたい、地球の裏側にいるあいつらに、何がわかるってんです?戦争は常に先手を取らにゃ。でないと・・・」


「でないと、何かね?」

戦場ここにいる、俺たちの仲間が死ぬんです。」

彼は、デスクの端に置いてある、集合写真を飾ったパネルを指差した。

「奴らの判断の遅れでね、死なないでもいい仲間が、何人も殺されましたよ。さ、用が済んだら、さっさと出てってくれませんかね?」


モレノは呆れたように、この軍服を着た復讐鬼を見下ろし、

「いま君らが攻撃した目標は、複数の民間人を含んでいるように見えたがね?」

「仕方ありませんやね。敵は普通の格好をしてる。だから疑わしきは、まず撃つ。ここでの鉄則です。」

「なるほど。君の有能ぶり・・・・を見て、いつまで経っても米国市民に対するテロ攻撃が止まない訳がわかったよ。」


憤然として立ち上がった彼を無視したモレノが、アイを差し招いた。

「彼女は、特別な遠隔透視能力を持っている。最高軍事機密トップ・シークレットだが、君たちの無軌道な暴走を止めるためには、お見せするしかないだろう。構えて他言無用だ。」

そう厳しく申し渡すと、アイをモニターの前に座らせ、非武装の観測用無人機のオペレータに命じて、ただ目を瞑ったアイの指示する通りに飛行を制御させた。


数分もしないうちに、無人機の高精度カメラは、武装した民兵の集合する裏通りの市場マーケットにフォーカスした。だがモレノはこれを直接攻撃させず、ただ直通電話ホットラインで米国に好意的な地元政府に急報し、すぐさま軍隊が現地に急行してテロ計画は未然に防止された。


「幸い、アメリカ人の血は流れなかったな。そして、おまえさん・・・・・の巻き添えも出なかった。」

モレノはさっきの代理指揮官にこう言い、アイを連れてその忌まわしい部屋を出た。

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